毛沢東の孫、党大会代表落選――毛沢東思想から習近平思想への転換
問題は、毛沢東を否定することは中国共産党を否定することにつながることである。
しかし毛沢東が「本当は何をしたのか」に関しては、このネットの時代。筆者が2015年11月に著した『毛沢東 日本軍と共謀した男』は中国でも知られるようになり、ニューヨークで中国語版が出たり、昨年9月にはワシントンのナショナル・プレス・センターで講演したりなどしたものだから、VOAなど数多くのメディアが習近平に見せるために筆者のドキュメンタリー番組を制作したりもした。それも影響していると、関係編集者たちは言っている。もちろん他の多くの海外にいる中国人研究者たちも同様の内容を発信していることは、言うまでもない。その言動は中国大陸のネットでも壁越え(万里の防火壁を越える)ソフトを使えば観ることができる。
いずれにせよ、毛沢東思想と毛沢東の影響そのものを否定するのか否かは、習近平政権にとっては一党支配体制の命運を決める重要な分岐点となっている。
8月1日には毛新宇落としが決まっていた
そのような中、今年8月1日の中国人民解放軍建軍節を祝賀する宴席で、習近平はワイングラスを持ちながらパーティ会場を回ったのだが、毛新宇の近くに行ったとき、習近平はクルリと背を向けて他の女性に杯を向け、毛新宇を背中に残したまま通り過ぎていってしまった。後ろに並ぶ李克強も同様に毛新宇に背中を向けたまま去っていった。
この時の動画がネットにアップされている。最初の一コマにある。その後は「毛新宇のお笑いインタビューが延々と続く。
9月9日は毛沢東逝去41周年記念だったが、いかなる国家行事もなかったことに注目したい。
第19回党大会で、党規約に「習近平思想」が書き込まれるか否か――。
そこにはこのような背景があるのであって、権力闘争と見ていたら、中国を読み取ることはできない。強いて権力闘争という言葉を使うなら、闘争している相手は「毛沢東」ということになろうか。習近平はひたすら葛藤していることだろう。
これこそは一党支配体制の根本的矛盾と限界を示すものと解釈しなければならない。
[執筆者]遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会科学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『習近平vs.トランプ 世界を制するのは誰か』(飛鳥新社)『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版も)『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。
※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。