北極開発でロシアは誰よりも先へ
アメリカでは目下、利益は二の次だ。北極圏での最大の懸念は別にある。昨年12月、バラク・オバマ米大統領(当時)は海洋資源保護のため、北極圏の米海域の大半で新たに石油・天然ガスを掘削することを禁止した。石油流出で、イヌイットが食料にしている海洋生物が汚染される恐れがあるからだ。
現大統領のドナルド・トランプはオバマの決定を覆すかもしれない。アラスカ州選出の議員も石油開発の拡大を求めるロビー活動を行っている。
しかしトランプの決断に関係なく、交易ルートと天然資源をめぐる米ロの競争は激化するだろう。予兆はある。15年5月、ロシアは軍用機250機、兵士1万2000人による大規模な軍事演習を北極圏で行った。NATOによる同様の演習に対抗したものだ。対してNATOの旗手たるアメリカは今年2月から、ノルウェーに300人の海兵隊員を常駐させている。
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北極海で軍備増強を計画
さらにロシアは慣例を破り、軍事演習に関する事前通告を一方的にやめた。おかげで北極海沿岸のNATO加盟国は心中穏やかでない。何しろデンマークもUNCLOSに基づいて北極海底の主権を主張しているし、やはりNATO加盟国のカナダも同様な主張の申請を準備している。
いずれの国にも、北極の海底は自国の大陸棚の延長だと証明できる可能性がある。そしてUNCLOSの下では、領有権の主張が重複する場合は当事国間の協議で境界線を画定する決まりだ。
だからこそロシア軍は、北極海を未来の戦場と位置付けているのだろう。「ロシアの政治指導者も軍部も、世界的なエネルギー資源の枯渇による紛争発生の可能性ありと論じ、西側がロシアの資源を奪いに来る事態を想定してきた」と、ノルウェー防衛大学のカタルジーナ・ジスク准教授は言う。
だが衝突必至という見方ばかりではない。欧米の外交関係者は折に触れて、ロシアが沿岸国のアメリカやカナダ、ノルウェー、スウェーデン、フィンランド、デンマーク、アイスランドと良好な関係を保っている、北極海では船舶の航行と捜索救助活動で協力していると語ってきた。現にノルウェーとロシアは10年に、バレンツ海の海域画定問題を平和的に解決してみせた。