ロヒンギャを襲う21世紀最悪の虐殺(前編)
ミャンマーにはロヒンギャ以外にも、政府と対立する民族が多くある。ラカイン州にはラカイン族と呼ばれる民族がおり、歴史的に政府との軋轢が絶えなかった。彼らとの全面闘争を避けたいミャンマー政府は、同じ地域に住むロヒンギャを悪玉に仕立てることで、ラカイン族の政府への反感を和らげようとしている。
「ラカイン族のトップは、軍とつながっている」と、日本でロヒンギャ難民として暮らすアブールカラムは語る。「政府はラカイン族をコントロールするためにロヒンギャを利用している」
アブールカラムは88年にヤンゴンで起こった民主化を求める学生運動に参加。その時、ロヒンギャ以外の民族もミャンマー政府と激しく対立していることを、身をもって知ることになった。
短期間で終わった民主化運動の後、アブールカラムは他の学生らと共に当局から追われる身になった。ヤンゴンを脱出し、タイとの国境沿いに向かって逃げた。一緒に逃げた7人の友人のうち、1人は豪雨で増水した川に流されて死んだ。
疲労困憊でたどり着いたのは、カレン族が住む地域だった。ミャンマー政府と長年対立している民族の1つで、自前の軍隊も持つ反政府勢力の象徴的な存在だ。
食べ物や水が体に合わず高熱を出し続けたアブールカラムだったが、そこで過ごすうちに、ミャンマー軍と戦おうという思いが湧いてきた。「恐ろしく強い」カレン軍ならできるかもしれない、と。
この後3カ月間、アブールカラムはカレン軍に入隊し軍事訓練を受けた。そしてある日、カレン軍とミャンマー軍の武力衝突に直面した。カレン側は10人前後、対するミャンマー軍兵士は数百人規模。圧倒的に劣勢だったが、それでもカレン軍はミャンマー軍兵士を次々と撃ち殺していったという。
自分にはできない。殺戮の光景を目の当たりにして思いは変わった。「軍が悪いのではなく政治が悪いのだと思った」。傍らでは、カレン族の子供がミャンマー軍に銃口を向けていた。
<後編に続く>
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