この男、プーチン大統領が「中東の盟主」になる日
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<ニューズウィーク日本版8月22日発売号(2017年8月29日号)は「プーチンの新帝国」特集。中東から欧州、北極まで、壮大な野心を露わにし始めたロシアの新たな「皇帝」の野心と本心、世界戦略に迫った。本記事は、特集の1記事「プーチンが中東の盟主になる日」を一部抜粋・転載したもの>
冬の地中海に浮かぶ1隻の空母。儀礼兵が居並ぶなか甲板に姿を現したのは、リビア東部を実効支配する民兵組織「リビア国民軍」のハリファ・ハフタル将軍だ。6年前、独裁者ムアマル・カダフィの政権打倒で大きな役割を果たしたハフタルは、アメリカの市民権を持ち、彼が率いるリビア国民軍もアメリカの支援を受けていた。
今年1月、厳重な警備の中、ハフタルはテレビ会議の準備が整った部屋に案内された。会議のテーマは、内戦状態のリビアをどうまとめるか。ただし協議相手は、国連が支援するトリポリ政権でも、ドナルド・トランプ米大統領でも、最近停戦仲介に成功したフランスのエマニュエル・マクロン大統領でもない。ロシアのセルゲイ・ショイグ国防相。その空母は、ロシア黒海艦隊のアドミラル・クズネツォフ号だ。
ロシアが再び中東のパワープレーヤーとして台頭しつつある。ここ1年だけでも、シリア内戦の流れを変え、トルコのレジェップ・タイップ・エルドアン大統領と親密な関係を築き、エジプトとサウジアラビア、さらにはイスラエルといった伝統的なアメリカの同盟国に食い込んだ。中東諸国の首脳がモスクワを訪問することも増えた。
アメリカは長年、世界に民主主義を広めようと努力してきたが、中東に限って言えば、逆効果を招いたケースも少なくない。「アラブの春」はチュニジア以外では長続きしなかったし、リビアとイエメンへの軍事介入は破綻国家を生んだ。シリアで反政府勢力を支援したことは内戦の長期化をもたらし、テロ組織ISIS(自称イスラム国)の勢力拡張を招いた。
中東和平もこれまでになく遠のいている。イランとの歴史的な核合意は、バラク・オバマ前米大統領の8年間の任期で、唯一成功した中東政策と言えるだろう。「オバマの中東政策は全面的に失敗だった」と、ロシア下院外交委員会のレオニード・スルツキー委員長は言う。「(アメリカが)無力で、何の結果も出せなかったことは明白だ」
民主主義を広めるどころか、オバマ政権とトランプ政権の下でアメリカは、「よその国の厄介事には関わらない」姿勢を強めてきた。ロシアはそこにチャンスを見いだしている。
ロシアにとって、中東での影響力拡大はいいことだらけだ。中東から地中海地域にまで政治的・軍事的影響力を行使できるようになるし、それは経済制裁などをめぐって欧米諸国と交渉するとき取引材料になる。「何より重要なのは、ロシアが戦略的影響力を取り戻すことだ」と、オレグ・モロゾフ上院議員は言う。
だが、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領にとっては、もっと重要な狙いがある可能性がある。イスラム過激派の流入阻止だ。プーチンはこれまでにも、北カフカス地方のイスラム武装組織の活動に手を焼いてきた。そんななか15年9月、ISISに参加するロシア人は2500人以上との報告が発表された。これを受けプーチンは、ロシアの安全保障のためには、シリアでバシャル・アサド大統領の体制を存続させる必要があると判断したようだ。