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北朝鮮軍入隊希望が殺到? 金正恩「核の脅し」の過剰演出がバレてきた
朝鮮戦争の戦没者墓地を参拝した金正恩朝鮮労働党委員長(7月28日) KCNA/via REUTERS
<「グアム周辺へミサイルを」「炎と怒りに包まれる」などと米朝双方が強硬発言を繰り返し、朝鮮半島情勢は緊張感の中にある。さらには北朝鮮の機関紙が「347万人が入隊を嘆願」などと報道し......>
トランプ米大統領の北朝鮮に対する強硬発言と、北朝鮮によるグアム島周辺へ向けたミサイル発射予告により、朝鮮半島情勢は韓国証券取引所の総合株価指数(KOSPI)が1週間(4~11日)続落するほどの緊張感の中にある。
軍内での「性上納」
しかしそろそろ、米朝双方の「舌戦」が演出過剰ぎみになってきたのも事実だ。
北朝鮮の朝鮮労働党機関紙・労働新聞は12日付で、新たな国連制裁決議発表後の3日間で、全国で大学生や女性を含む347万5000人が朝鮮人民軍(北朝鮮軍)への入隊を嘆願したと報道。「祖国決死守護の聖戦に総決起している」と強調した。
347万人と言えば、北朝鮮が現有する兵力の3倍にもなる数である。
北朝鮮ではいま、社会全体の食糧事情が好転しているのに軍だけが取り残され、食糧難に陥っている状況がある。将官や将校が余りの薄給に耐え切れず、兵士用の配給を横流しすることで生活費を確保しているからだ。そのため、兵士たちはまともな食事にありつけず、栄養失調になる者が後を絶たない。
また、軍隊内では人事などを巡ってワイロが乱れ飛び、女性兵士に対しては「マダラス」と呼ばれる性上納の強要が横行している。軍紀も何も、あったものではないのだ。
(参考記事:北朝鮮女性を苦しめる「マダラス」と呼ばれる性上納行為)
本当に怖い「核地雷」
そんなところに300万人以上もの新兵を受け入れたら、朝鮮人民軍は戦う前に自滅してしまうだろう。いくら景気づけとはいえ、本物の闘志を示したいのなら、金正恩党委員長は部下たちに言って、対外宣伝をもう少し工夫すべきだ。
一方、大げさなのはトランプ氏も同じだ。同氏は11日、北朝鮮がグアム島周辺へのミサイル発射を予告したのを受け、ツイッターに「北朝鮮が愚かな行動を取った場合、軍事的な解決の準備は完全に整っている」と投稿した。
ハッキリ言って、軍事的な解決の準備が「完全に」整っているというのはウソである。
米軍は、北朝鮮の軍をほぼ無力化するところまでの計画ならば持っているのかもしれない。
しかし、北朝鮮の国土を制圧するところまでの計画を完成させているとは思えない。何故なら、北朝鮮がすでに核武装国だからだ。核兵器は、ミサイルに搭載して飛ばす以外にも使い方はある。例えばどこかの地下に核爆弾が埋められていた場合――つまりは「核地雷」が仕掛けられていたら、そこに侵攻した米軍や韓国軍の兵士は一撃で消し飛ばされ、一度に数千人から下手をすれば万単位の犠牲者が出ることになる。
そんなリスクには、民主国家の軍隊は今や耐えられないのだ。
だが、いくら北朝鮮軍の主力を壊滅させても、金正恩党委員長から核戦争能力を完全に取り上げない限り、それは「軍事的な解決」とは言えないはずだ。
本当の意味で「軍事的な解決」を得ようと思うならば、金正恩体制の変更を望む北朝鮮国内の人々と連携し、「政治的な解決」も合わせて追求すべきなのだが、それこそが、米国も韓国も日本もまったく準備ができていない部分なのである。
(参考記事:「いま米軍が撃てば金正恩たちは全滅するのに」北朝鮮庶民のキツい本音)
[筆者]
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト)
北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)、『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)、『北朝鮮ポップスの世界』(共著、花伝社)など。近著に『脱北者が明かす北朝鮮』(宝島社)。