米朝舌戦の結末に対して、中国がカードを握ってしまった
しかし今般、米朝舌戦がエスカレートする中、北朝鮮が米国領グアム海域へのミサイル攻撃計画を発表した。それを受けて、8月11日、中国共産党機関紙「人民日報」の姉妹版「環球時報」は、以下のような社説を掲載した。
●北朝鮮に対する警告:もし北朝鮮がアメリカ領を先制攻撃し、アメリカが報復として北朝鮮を武力攻撃した場合、中国は中立を保つ(筆者注:即ち、中朝軍事同盟は無視する。これは北朝鮮にとっては脅威)。
●アメリカに対する警告:もしアメリカが米韓同盟の下、北朝鮮を先制攻撃すれば、中国は絶対にそれを阻止する(筆者注:これは中朝軍事同盟に従って北朝鮮側に付くことを意味する)。中国は決してその結果描かれる「政治的版図」(朝鮮半島が米韓によって占領されること)を座視しない(筆者注:米中が戦争となれば、アメリカ経済には大きな打撃。中国依存度が高いから。アメリカは中国を相手に戦争をしたいとは思っていない。また中朝露とアメリカが戦うことになれば、第三次世界大戦に発展する)。
●中国は朝鮮半島の核化には絶対に反対するが、しかし朝鮮半島で戦争が起きることにも同時に反対する。(米韓、朝)どちら側の武力的挑戦にも反対する。この立場において、中国はロシアとの協力を強化する。
中国がカードを握ってしまった
この声明は、何を意味するのか。
それは、米朝両国に「中朝軍事同盟」というカードを用いて警告を与え、北朝鮮を中心とする北東アジア情勢動向のカードを、中国が握ってしまったことを意味する。北朝鮮は160数カ国と国交があるが、軍事同盟を結んでいるのは中国のみ。中国はこの軍事同盟を逆手に使って米朝両国に警告し、両方が軽率には軍事的に動けないようにしたことになる。こうなると中国が主導権を握ることになるのだ。
筆者が以前、日米が先に対話路線を模索する方が賢明だと書いたのは、この事態を避けたかったからだ。中国が北朝鮮の唯一の軍事同盟国であるという事実は、枕詞のように付けている「(経済において)北朝鮮の後ろ盾になっている中国」という、あまり正確でない言葉よりは、ずっと強力なのである(経済的には、統計に出ない、数多くの国交のある国と北朝鮮との間の闇取引による収入が圧倒的に大きい)。
くり返しになるが、そもそも朝鮮戦争を起こしたのは北朝鮮だが、朝鮮戦争の休戦協定を破ったのはアメリカと韓国だ。韓国が「休戦なんかしたくない」と駄々をこねて、アメリカに休戦協定を破らせた(詳細は『習近平vs.トランプ 世界を制するのは誰か』の第三章「北朝鮮問題と中朝関係の真相」に)。