最新記事

テクノロジー

AIの思考回路はブラックボックス

2017年8月4日(金)18時15分
ジョン・フランク・ウィーバー(弁護士・作家)

iStock./GETTY IMAGES

<人工知能が下した判断の根拠を明らかにする動きを加速させる必要がある>

わが家は今、アマゾン・ドットコムのスマートスピーカー「アマゾン・エコー」にはまっている。なかでもお気に入りは音楽。エコーに搭載されたAIアシスタント「アレクサ」に一声掛ければ、家族の好みに合った曲を流してくれる――大抵の場合は。

ところが先日、思わぬことが起きた。アレクサが選んだのは90年代の一発屋ラッパー、サー・ミックス・ア・ロット。大笑いした後、私は真面目に尋ねた。「アレクサ、どうして?」。優秀なAIが、子供向けの音楽やビートルズを好むわが家にこの曲を薦めた理由を知りたかったのだ。

残念ながら、アレクサはその問いに答えられない。判断の根拠を明らかにする仕様になっていないからだ。

アレクサのようなAIアシスタントや自動運転車、自動会話プログラムなど、AIが自ら学習を重ね、独自の判断を下す自律デバイスが続々と登場している。だがその「思考回路」はブラックボックスで、AIの意外な選択に戸惑わされることもある。

【参考記事】AIを使えば、かなりの精度で自殺を予測できる

しかも、こうしたテクノロジーは司法や健康、さらには生死を左右する判断にまで関与し始めており、場違いな選曲といった笑い話とは比べものにならないほど深刻な影響をもたらしかねない。

そこで注目が高まっているのが「説明を求める権利」だ。AIがなぜこの曲を選んだのか、なぜここで高速道路を降りることにしたのかといった疑問に答えるよう要求する権利のことで、AIの判断プロセスがブラックボックス化している流れを食い止めようとする動きだ。

説明を求める権利は、アルゴリズムの透明性を高める取り組みの一環でもある。透明性が高まれば、AIが差別を助長する選択をしたり、特定の企業を不当に利するような事態を防ぎやすくなる。

この権利を重視する流れが特に顕著なのはEUだ。EUはプライバシー保護の新たな枠組みである「一般データ保護規則(GDPR)」を来年5月に施行予定。ユーザーの個人情報を入手した企業は、その情報をAIが処理するか否かを本人に通知し、AIの判断の背後にあるロジックについて情報提供することが義務付けられる。つまり、AIが個人情報に基づき特定の音楽や通行ルートを推薦するたびに、その根拠を説明する責任が生じる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏とゼレンスキー氏が「非常に生産的な」協議

ワールド

ローマ教皇の葬儀、20万人が最後の別れ トランプ氏

ビジネス

豊田織機が非上場化を検討、トヨタやグループ企業が出

ビジネス

日産、武漢工場の生産25年度中にも終了 中国事業の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口の中」を公開した女性、命を救ったものとは?
  • 3
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 4
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 5
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 6
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 7
    足の爪に発見した「異変」、実は「癌」だった...怪我…
  • 8
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 9
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 10
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 3
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 4
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 8
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 9
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 10
    【クイズ】世界で最もヒットした「日本のアニメ映画…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中