最新記事

インドネシア

南シナ海の一部海域に独自の新名称 インドネシアが中国に対抗

2017年7月25日(火)18時50分
大塚智彦(PanAsiaNews)

「北ナトゥナ海」の名称が入った新しい地図を報道陣に披露したインドネシア当局 Beawiharta/REUTERS

インドネシア政府は7月14日、中国が権益を一方的に主張している南シナ海の南端部分にあたる海域に「北ナトゥナ海」という独自の呼称をつけ、自国の権益が及ぶ海域であることを内外に示した。中国は南シナ海の大半に「九段線」という海域を示して一方的に自国の権益を主張。これがフィリピンやマレーシア、ベトナムなど周辺諸国との領有権争いや資源の管轄権争い、安全保障上の問題にまで発展し、国際的にも非難を浴びている。

この南シナ海の南端部にはインドネシア領のリアウ諸島州ナトゥナ諸島があり、「九段線」の海域はその一部がナトゥナ諸島北部に広がるインドネシアの「排他的経済水域(EEZ)」と重複している。このEEZの範囲を含めた海域を今回インドネシア政府は「北ナトゥナ海」と正式に呼称すると発表し、国際水路機関(IHO)に正式名称としての登録を申請する方針を示したのだ。

【参考記事】人工島の軍事拠点化ほぼ完成--南シナ海、米中衝突のシナリオ

会見したインドネシアの海事調整省はすでに「北ナトゥナ海」という名称が入った新たな地図を作製したことも明らかにした。

同海域は海底に石油や天然ガスなどの資源が確認されているほか豊かな漁場としても知られ、中国をはじめベトナム、タイなどの漁船によるインドネシアEEZ内での違法操業が絶えず、インドネシア海軍、海上警察などが取り締まりを強化している。拿捕した一部漁船を見せしめのために無人にした上で海上において爆破処理するデモンストレーションを行ったこともある。

【参考記事】南シナ海で暴れる中国船に インドネシアの我慢も限界

海洋権益を守り、海洋国家としての開発を重要政策の一つに掲げるジョコ・ウィドド大統領は、ナトゥナ諸島に日本の築地水産市場をモデルにした水産資源の一大流通施設の建設構想を明らかにしている。その一方で、違法操業で拿捕したベトナム、タイ、中国の漁船員を収容する施設の拡充、警戒警備にあたる海上警察組織や海軍、空軍のための港湾施設、空港の建設・整備も進められている。

各国はそれぞれ命名して中国に対抗

南シナ海を巡ってはベトナムが自国の東方沖に位置する海域であることから「イーストシー(東海)」と独自の名称で呼び、フィリピンは自国西方の海域にあたる南シナ海を「西フィリピン海」と呼ぶなど、各国独自の呼称が入り乱れている。いずれの国も中国が南シナ海の南沙諸島、西沙諸島などの領有権を一方的に主張して軍の威力を背景に実効支配に乗り出し、さらに南シナ海のほぼ全域に及ぶ「九段線」を勝手に設定して権益を主張していることに対抗する措置としての命名といえる。しかし、中国側は「イーストシー」も「西フィリピン海」もこれまで一切認めていない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

10月全国消費者物価(除く生鮮)は前年比+2.3%

ワールド

ノルウェーGDP、第3四半期は前期比+0.5% 予

ビジネス

日産、タイ従業員1000人を削減・配置転換 生産集

ビジネス

ビットコインが10万ドルに迫る、トランプ次期米政権
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 5
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中