迷走するオバマケア代替法案のあまりに不都合な真実
貧しい層は、メディケイドの見直しに直撃される。2022年時点の代替案によるメディケイド加入者の減少数は、個人保険加入者の減少数の2倍以上に達する見込みである。
連邦政府による財政負担の減少に伴って、メディケイドがカバーする医療サービスが縮小されるリスクも見逃せない。とくに米国では、大きな社会問題となっている薬物中毒について、その治療がメディケイドから外れる可能性が問題視されている。
それだけではない。審議が見送られた共和党のオバマケア代替案には、富裕層に有利な減税が含まれていた。共和党の代替案では、オバマケアの財源として盛り込まれていた投資収益に対する追加税などが廃止されることになっていた。減税総額は10年間で約5,000億ドルを超えており、その7割近くが所得の高い上位20%の富裕層の懐に入る計算だった。
財政赤字の観点では、減税さえなければ、ここまで補助金などを減らす必要はなかった。何しろ、減税を除けば、代替案による財政赤字の減少は、8,000億ドルを超えていた。貧しい層は、割を食った格好だ。
課題に答えられない共和党
結局のところ、共和党のオバマケア代替案は、オバマケアの問題点に正面から答えていない。保険料は下がらず、保険が提供されない地域も残る。財政赤字こそ減るものの、その一方では、財政を悪化させる富裕層向けの減税が盛り込まれていた。それだけでなく、無保険者が増加する等、新たな問題を生み出してしまう。
オバマ前政権時代の共和党は、議会でオバマケアへの反対を論じてさえいれば良かった。たとえ廃止案が議会で可決されたとしても、オバマ前大統領が拒否権を発動するのは確実であり、共和党が代替案に責任を負う必要はなかった。
トランプ大統領自身は医療保険制度に詳しいわけではなく、さほど代替案の内容にもこだわりはないと伝えられる。政権政党となった今、共和党は責任ある対応を迫られている。
安井明彦
1991年富士総合研究所(現みずほ総合研究所)入社、在米日本大使館専門調査員、みずほ総合研究所ニューヨーク事務所長、同政策調査部長等を経て、2014年より現職。政策・政治を中心に、一貫して米国を担当。著書に『アメリカ選択肢なき選択』などがある。
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