最新記事

中韓関係

韓国を飲み込んだ中国--THAAD追加配備中断

2017年6月8日(木)20時00分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

THAADの配備に反対する人たちの抗議行動 Kim Hong-Ji-REUTERS

中国への経済依存を優先した韓国は、中国の軍門に下る結果を招いた。環境評価などを口実にTHAADの追加配備を中断。文政権は対話重視で北朝鮮には足元を見られ、米国との関係も危ない。行きつく果ては?

経済で韓国を「釣る」

文在寅(ムン・ジェイン)大統領は選挙期間中からTHAAD(終末高高度防衛ミサイル)の韓国配備に関して慎重論を展開してきたが、大統領に当選すると、早速中国の習近平国家主席と電話会談。「中韓の関係改善を図りたい」と語る文大統領に対して、習主席は「それなら実際の行動で示すように」と語ったという。中国メディアが伝えた。

そこで5月19日には文大統領は自らの親書を携えさせ大統領特使としてイ・ヘチャン(李海●。●は王へんに賛の夫がそれぞれ先)を北京に派遣して習主席と会談させた。

李特使は中韓関係を重んじる証拠として、「韓国は中国の憂慮を理解する」と語り、「THAADの韓国配備に関して協議する用意がある」と述べた。

それでよいのだ。そう来なければ「実際の行動で示した」とは言えない。習主席はそう思ったのだろう。

頭を下げてきた韓国に対して、中国は早速これまでの経済制裁を緩和し、チャイナ・マネーという釣り糸で韓国を手繰り寄せ始めた。

韓国メディア「アジア経済」の報道によれば、韓国の免税店、化粧品売り場、観光業など、THAAD問題で冷え切っていたが、李特使の中国への朝貢外交以降、突然改善され始めたという。

中国との交流の「最前方基地」である仁川(インチョン)市の変化は、その指標のようなものだ。それまで途絶えていた近隣の中国の十数都市からの旅行客が約2.3万人増加し、それまでより9.3%上昇。5月19日一日だけの観光船舶の乗客も、山東省威海や青島、あるいは遼寧省丹東からだけで1267人あり、仁川港は活気を取り戻し始めたとのこと。韓国のタレントたちの中国における興業も突然許されるようになり、韓国国民の心まで中国に手繰り寄せることができた。

THAAD追加配備中断に持ち込む

その結果、6月7日、韓国政府はTHAADの追加配備に関しては「4基の配備は用地の環境影響評価作業が終了してから決定する」と発表。環境評価作業は1年はかかることから、事実上の「中断」であると、中国はまた、高笑いなのである。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ノルウェー・エクイノール、再生エネ部門で20%人員

ワールド

ロシア・イラク首脳が電話会談 OPECプラスの協調

ワールド

トランプ次期米大統領、ウォーシュ氏の財務長官起用を

ビジネス

米ギャップ、売上高見通し引き上げ ホリデー商戦好発
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 5
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 6
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 7
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 8
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中