再び『ツイン・ピークス』の迷宮へ
今のところ『ツイン・ピークス The Return』には、オリジナル版ほど説明的なセリフやシーンがない。
オリジナル版は幅広い視聴者にアピールするため、ローラの死をめぐる謎解きのほか、パッカード製材所とその土地の再開発計画を中心に物語が整理され、そこに2組の三角関係という、俗っぽいサイドストーリーによる色付けがされていた。
クーパーはチェリーパイやドーナツが大好きで、事件の現場でもペンでメモを取るより、自分のコメントをテープに録音するタイプ。そんなコミカルな人物描写が、どこか気味の悪いストーリーと絶妙なバランスを生み出していた。
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オリジナルよりも難解
これに対して『ツイン・ピークス The Return』では、よりダークで内面的なリンチの映像世界が全面的に展開されている。オリジナル版にも突拍子もない場面転換や謎解きのようなセリフはあったが、今回のぶっ飛び感は格別だ。
例えば、ブラック・ロッジの床が急に割れて、クーパーが宇宙のような空間に放り出されるシーン。やがてクーパーは、広大な紫色の海に囲まれた、ブリキ缶のような建物の床にたたきつけられる。建物内には目のない若い女性がいて、「そこに着いたら、もうそこにいる」と、謎解きのような助言をする。
あるいはサウスダコタに住む悪人クーパーが、ある若い女性を脅すシーン。彼はジャケットからトランプのカードを出して、「これを見たことがあるか」と聞く。それはスペードの1だが、カードに描かれているのはスペードではなく、アリの顔みたいな黒い円に、触覚のようなものが描かれている。「私が欲しいのはこれだ」
『ツイン・ピークス The Return』には、こうした謎のシーンやセリフがあふれている。これが無名の監督の作品か、リンチのデビュー作だったら、奇怪だとか意味不明と一刀両断にされていただろう。
だが私たちは、オリジナルの『ツイン・ピークス』や映画『ブルーベルベット』『マルホランド・ドライブ』で、リンチが現実の世界と空想の世界を自在に織り込み、ゆっくり進んでいたかと思えば、急に猛スピードで走りだすジェットコースターのようなドラマ(と映画)を作ってきたことを知っている。
その独特の世界観は、『ツイン・ピークス The Return』で新たなレベルに達したと言える。大衆受けを狙って妥協したオリジナル版と違って、今回は18時間のリンチ映画を見るようなもの。だとすれば腹をくくって、潔くその迷宮に飛び込もうではないか。
© 2017, Slate
[2017年6月13日号掲載]