最新記事

ドラマ

再び『ツイン・ピークス』の迷宮へ

2017年6月14日(水)10時00分
ローラ・ミラー

今のところ『ツイン・ピークス The Return』には、オリジナル版ほど説明的なセリフやシーンがない。

オリジナル版は幅広い視聴者にアピールするため、ローラの死をめぐる謎解きのほか、パッカード製材所とその土地の再開発計画を中心に物語が整理され、そこに2組の三角関係という、俗っぽいサイドストーリーによる色付けがされていた。

クーパーはチェリーパイやドーナツが大好きで、事件の現場でもペンでメモを取るより、自分のコメントをテープに録音するタイプ。そんなコミカルな人物描写が、どこか気味の悪いストーリーと絶妙なバランスを生み出していた。

【参考記事】シャーロックとワトソンの名探偵コンビ、ドラマは衝撃の第4章へ(ネタばれ注意)

オリジナルよりも難解

これに対して『ツイン・ピークス The Return』では、よりダークで内面的なリンチの映像世界が全面的に展開されている。オリジナル版にも突拍子もない場面転換や謎解きのようなセリフはあったが、今回のぶっ飛び感は格別だ。

例えば、ブラック・ロッジの床が急に割れて、クーパーが宇宙のような空間に放り出されるシーン。やがてクーパーは、広大な紫色の海に囲まれた、ブリキ缶のような建物の床にたたきつけられる。建物内には目のない若い女性がいて、「そこに着いたら、もうそこにいる」と、謎解きのような助言をする。

あるいはサウスダコタに住む悪人クーパーが、ある若い女性を脅すシーン。彼はジャケットからトランプのカードを出して、「これを見たことがあるか」と聞く。それはスペードの1だが、カードに描かれているのはスペードではなく、アリの顔みたいな黒い円に、触覚のようなものが描かれている。「私が欲しいのはこれだ」

『ツイン・ピークス The Return』には、こうした謎のシーンやセリフがあふれている。これが無名の監督の作品か、リンチのデビュー作だったら、奇怪だとか意味不明と一刀両断にされていただろう。

だが私たちは、オリジナルの『ツイン・ピークス』や映画『ブルーベルベット』『マルホランド・ドライブ』で、リンチが現実の世界と空想の世界を自在に織り込み、ゆっくり進んでいたかと思えば、急に猛スピードで走りだすジェットコースターのようなドラマ(と映画)を作ってきたことを知っている。

その独特の世界観は、『ツイン・ピークス The Return』で新たなレベルに達したと言える。大衆受けを狙って妥協したオリジナル版と違って、今回は18時間のリンチ映画を見るようなもの。だとすれば腹をくくって、潔くその迷宮に飛び込もうではないか。

© 2017, Slate

[2017年6月13日号掲載]

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

IT大手決算や雇用統計などに注目=今週の米株式市場

ワールド

バンクーバーで祭りの群衆に車突っ込む、複数の死傷者

ワールド

イラン、米国との核協議継続へ 外相「極めて慎重」

ワールド

プーチン氏、ウクライナと前提条件なしで交渉の用意 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドローン攻撃」、逃げ惑う従業員たち...映像公開
  • 4
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 5
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 6
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 7
    体を治癒させる「カーニボア(肉食)ダイエット」と…
  • 8
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    足の爪に発見した「異変」、実は「癌」だった...怪我…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 8
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 9
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 10
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中