最新記事

ロシア政治

「汚職疑惑」に潜むロシア政府の不安定性

2017年6月12日(月)18時30分
溝口修平(中京大学国際教養学部准教授)

公判において、原告側は、ウスマノフが「社会国家計画」基金に寄付をしたことは認めたが、この基金がメドヴェージェフによって管理されていることを示す証拠、つまりウスマノフがメドヴェージェフに賄賂を送ったという証拠をナヴァリヌィは何一つ示していないと主張した。被告側は、彼らが求めた23の証拠請求のうち1つしか裁判所が認めなかったために、証拠を提示できないと主張したが、結局裁判所は、ナヴァリヌィと反汚職基金が公開した情報は事実ではなく、その情報を削除するよう求める判決を下した。この判決に対し、ナヴァリヌィはすぐに控訴するという声明を発表した。

ウスマノフが訴訟をおこしたのは、議論の焦点をメドヴェージェフの汚職から逸らすために、政権が依頼したためだというのが、ナヴァリヌィの見解だ。もしそれが真実ならば、政権はナヴァリヌィの存在を脅威とみなしているということになる。その真偽はさておき、実際に動画は少なからず政権を揺さぶっている。下のグラフが示しているように、動画が発表された直後に、メドヴェージェフの支持率は10%下がって42%となり、支持率と不支持率が逆転した。また、メドヴェージェフの辞任に賛成する人も45%に上がった。

ついに不支持率が支持率を上回る事態に

「クリミア・コンセンサス」と言われるように、2014年3月のクリミア併合後、ロシアでは国民の政府に対する支持率が急上昇した。現在でもプーチン大統領に対する支持率は80%を超えており、一見政権は磐石であるように見える。しかし、経済の停滞なども影響して首相であるメドヴェージェフの支持率は徐々に低下しており、上記の事件をきっかけについに不支持率が支持率を上回る事態となった。ナヴァリヌィは、6月12日に再び反汚職集会を行うことを呼びかけており、政府への批判をますます強めている。この運動が直ちにプーチン政権を危機に導く可能性は今のところ高くないが、国民の間には社会の停滞や、権力と市民との乖離に対する不満がくすぶっている状況にある。

mizoguchi1.jpg出典:レヴァダ・センター

[筆者]
溝口修平
中京大学国際教養学部准教授。1978年東京生まれ。東京大学卒、東京大学大学院修了。博士(学術)。キヤノングローバル戦略研究所研究員、東京大学大学院総合文化研究科国際社会科学専攻助教を経て、現職。専門は現代ロシア政治、比較政治学。著書に『ロシア連邦憲法体制の成立:重層的転換と制度選択の意図せざる帰結』(北海道大学出版会、2016年)、編著書に『連邦制の逆説?:効果的な統治制度か』(ナカニシヤ出版、2016年)などがある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

韓国尹大統領に逮捕状発付、現職初 支持者らが裁判所

ワールド

アングル:もう賄賂は払わない、アサド政権崩壊で夢と

ワールド

アングル:政治的権利に目覚めるアフリカの若者、デジ

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 7
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 8
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 9
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 10
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中