最新記事

イギリス

EU離脱交渉、弱腰イギリスの不安な将来

2017年6月21日(水)17時20分
デービッド・フランシス

EU離脱を正式に通告したメイ英首相への抗議(3月29日) Peter Nicholls-REUTERS

<英総選挙で与党・保守党が予想外の大敗を喫してしまったために、足元を見られてEUの言いなり>

イギリスの欧州連合(EU)離脱交渉は、首脳級の政治的駆け引きが要求される場になるだろう。だが、ブレグジット(EU離脱)に向けた交渉の初日は、イギリスにとって不幸なものだった。

EU離脱担当相デービッド・デービスは、まずは通商関係に関する協議を優先させ、イギリスがEUを去るにあたっての政治的、経済的条件を定めたいわゆる離脱請求書(Brexit bill)に関する議論は後回しにしたいと考えていた。

【参考記事】ブレグジットがもたらすカオス 最初の難関は600億ユーロの離脱清算金

だが実際は反対だった。EUの首席交渉官を務めるミシェル・バルニエは、イギリスが第一に進めるべきはEU離脱の手続きであり、両者の離脱後の関係についての条件整備はそのあとになるとの方針を示した。

まずはEUという巨大市場へのアクセスを確保しようというイギリス政府の思惑は外れた。あくまで離脱ありきで、イギリスにおけるEU加盟国市民の権利、そしてEU加盟国におけるイギリス国民の権利について最初に数カ月を費やさなければならなくなる。

デービスは、少なくとも交渉の初期段階では、いわゆる「ソフト・ブレグジット」(移民受け入れである程度EUの言うことを聞く代わり、EU市場へのアクセスを維持する穏健な離脱)路線を取るつもりはないことを辛うじて明言した。

カナダ方式もあるが

イギリスは、EUの共同市場を離脱して域内で国境をまたいで移動する自由を外国人から奪う一方、EU市場と内国待遇で貿易する特権はこれまで通り確保したいという考えだ。

この条件は、現在カナダがEUと結んでいる協定に最も近い。カナダは、EU加盟国市民に対して「国境を越えた移動の自由」を与えているわけでも、EUに対して分担金を支払っているわけでもないが、EUという巨大な経済圏との間で自由貿易協定を締結し、その恩恵を得ている。

だが、EUとカナダの貿易協定は、交渉開始から締結までに8年を要した。

しかもイギリスは、少し前までは考えもしなかった逆風のさなかにある。政権基盤を強化した上でEU離脱交渉に臨もうと考えたテリーザ・メイ英首相は、抜き打ちの総選挙に打って出た。しかし6月8日に行った総選挙では予想外の大敗を喫し、与党・保守党は選挙前の単独過半数も失った。

【参考記事】英総選挙で大激震、保守党の過半数割れを招いたメイの誤算

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米年末商戦小売売上高が昨年上回る、ネット販売好調=

ワールド

インド、個人所得税の減税検討 消費拡大へ中間層支援

ビジネス

NY外為市場=ドル一時158円台、5カ月ぶり高値

ビジネス

米国株式市場=ダウ5日続伸、米国債利回り上昇が一部
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2025
特集:ISSUES 2025
2024年12月31日/2025年1月 7日号(12/24発売)

トランプ2.0/中東&ウクライナ戦争/米経済/中国経済/AI......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊」の基地で発生した大爆発を捉えた映像にSNSでは憶測も
  • 2
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3個分の軍艦島での「荒くれた心身を癒す」スナックに遊郭も
  • 3
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部の燃料施設で「大爆発」 ウクライナが「大規模ドローン攻撃」展開
  • 4
    「とても残念」な日本...クリスマスツリーに「星」を…
  • 5
    なぜ「大腸がん」が若年層で増加しているのか...「健…
  • 6
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
  • 7
    ウクライナの逆襲!国境から1000キロ以上離れたロシ…
  • 8
    わが子の亡骸を17日間離さなかったシャチに新しい赤…
  • 9
    日本企業の国内軽視が招いた1人当たりGDPの凋落
  • 10
    滑走路でロシアの戦闘機「Su-30」が大炎上...走り去…
  • 1
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 2
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が明らかにした現実
  • 3
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊」の基地で発生した大爆発を捉えた映像にSNSでは憶測も
  • 4
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 5
    ウクライナの逆襲!国境から1000キロ以上離れたロシ…
  • 6
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
  • 7
    おやつをやめずに食生活を改善できる?...和田秀樹医…
  • 8
    9割が生活保護...日雇い労働者の街ではなくなった山…
  • 9
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 10
    【駐日ジョージア大使・特別寄稿】ジョージアでは今、…
  • 1
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 2
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が明らかにした現実
  • 3
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊」の基地で発生した大爆発を捉えた映像にSNSでは憶測も
  • 4
    ロシア兵「そそくさとシリア脱出」...ロシアのプレゼ…
  • 5
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 6
    半年で約486万人の旅人「遊女の数は1000人」にも達し…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「炭水化物の制限」は健康に問題ないですか?...和田…
  • 9
    ミサイル落下、大爆発の衝撃シーン...ロシアの自走式…
  • 10
    コーヒーを飲むと腸内細菌が育つ...なにを飲み食いす…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中