ドイツでタイ国王がBB弾で「狙撃」、これがタイなら......
しかし、タイは国王や王室に関して厳しい報道規制があり、国王や王妃、王位継承者など一族のプライバシーや名誉に対する「不敬罪」(刑法112条)が現在も厳然として存在する。2014年5月のクーデータで軍政が政権を担って以来これまでに不敬罪での逮捕者は100人以上に上っている。最も最近の事例としては、6月9日にフェイスブックで王室に批判的な書き込みを10件行った不敬罪で、33歳のタイ人男性が禁固35年の実刑判決を受けている。
これは王室批判とともに政府批判も封じ込めたいとする軍政がネット上での監視も強化していることの反映で、最近ではフェイスブックでの不敬な書き込みやスキャンダルに「いいね」を押しただけでも罪に問われかねない事態となっているという。
未確認情報あふれるネット
こうした国内事情のためタイ国内では今回の「国王狙撃」のニュースはほとんど報じられていない(英BBC放送が初めてタイ語サイトでニュースを報じた)。しかし多くの国民はインターネットなどの各種サイトで「事件」を知り、口をつぐんでいるという。
今回の「狙撃事件」にはネット社会を反映して尾ひれがついており、事件当日ミュンヘンでは全裸で自転車に乗る「ヌード・サイクリング」のイベントが開催されていたという情報がある。そしてワチラロンコン国王自身もこのイベントに全裸で参加し、イベント終了後にも取り巻きを引き連れて「夜に全裸でサイクリングしていた」ところを狙撃されたというのだ。もっともいずれも「あくまで未確認情報である」との注釈付きであるが。
タイ軍政や王室からはこの件に関してはこれまでのところ一切のコメントも反応も出されていない。そして事件の内容が内容だけに今後もタイ国内では、多くの国民が知りながら「存在しなかった出来事」となることは間違いない。
ワチラロンコン国王の即位式はプミポン前国王の喪が明ける今年10月26日に執り行われる予定だ。
[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など
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