18歳少女歌手の衣装・振付に難癖 タイ軍政トップの逆鱗に忖度?
その一方で「ラムヤイは本当にタイ文化を破壊しているのだろうか」との声も出ている。
「長いことこのスタイルで歌ってきたラムヤイに罪はない」「衣装の下には下着を付けストッキングをはいているのでわいせつなではない」「権力者の一言に社会が一斉になびくのは不健全だ」などとネット上ではラムヤイ擁護の声が続々と広がっているが「ネット規制強化」をもくろむ軍政にはその声はむしろ逆効果になるかもしれない。
「生活のために恥を忍んで」
ラムヤイさんは学校に通学しながら生活を支えるために夜は得意の歌を歌うバイトをしていた苦学生だった。ところが2016年にショートパンツで左足を大きく上げ、男性に寄りかかるようなステージの写真がネットで拡散、一気に注目を浴びるようになった。
セクシーで過激な衣装と扇情的な振り付けは一部で問題視され、それが原因で通学していた学校を退学に追い込まれたという。
人気が出てきた後にタイのテレビでインタビューを受けたラムヤイさんは衣装について「恥ずかしいけれどこれも仕事です。食べるために、生活のためにやっていることなんです」とその胸中を話していた。
一転して絶賛、首相の真意は
プラユット首相は、自らの苦言を受けてラムヤイさんが衣装と踊りを改善したことに対し「忠告を受け入れて態度を改めるという若者の良い手本を見せてくれた」とラムヤイさんを絶賛。プラユット首相の難癖、改善、評価という一連の騒動を経て、結果としてラムヤイさんの人気がさらに高まり、その名が世界に知られるようになったことだけは間違いない。
ラムヤイさん以外にもセクシー衣装や過激ダンスの歌手はタイにはいるし、歓楽街ではラムヤイさんと同じ18歳前後の女性がビキニ姿でステージに立ち踊っている日常がある。それだけに、なぜラムヤイさんが槍玉にあがり、逆鱗に触れたのか、ラムヤイ騒動とは一体なんだったのか。タイ人も首をかしげる。
ただ一つ間違いないのは、2016年10月13日に死去したプミポン前国王の葬儀を10月26日に控え、プラユット政権は国内治安の安定維持のため、パタヤやプーケットなどの観光地、バンコク市内の歓楽街での風俗取り締まり、麻薬犯罪の取り締まりなどを特に強化している。
【参考記事】タイは麻薬撲滅をあきらめて合法化を目指す?
プラユット首相とワチラロンコン国王の関係はあまりよくないとされるだけに、国王の思惑をこれも忖度あるいは先取りしてプラユット首相があれこれ進める政策の一環として人気絶頂のラムヤイさんが目につき、一言いってみたかっただけではないか、というのがタイ人記者たちの共通の見方らしい。
[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など
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