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北朝鮮韓国新大統領の誕生を喜ぶ北朝鮮の地方幹部たち
5月10日、韓国大統領就任を宣誓する文在寅(ムン・ジェイン) Ahn Young-joon-REUTERS
<隣国・北朝鮮にも韓国大統領選の結果はすぐさま伝わった。文在寅の当選を地方幹部たちが歓迎しているのはなぜなのか>
韓国の文在寅新大統領の誕生は、北朝鮮の各メディアを通じて、同国の人々に伝わった。地方幹部の間では喜びの声が聞かれる一方で、当局は韓国に対する憧れが高まることを警戒している。
黄海北道(ファンヘブクト)のデイリーNK内部情報筋によると、朝鮮労働党の組織指導部は、道の党委員会、人民委員会(道庁)に文在寅氏の当選を伝えた。情報筋はその時期について明らかにしていないが、北朝鮮メディアが報道する前――つまりは当選翌日だったものと思われる。
地方幹部は、一様に文在寅氏の新大統領就任を喜んでいるもようだ。
文氏は、2007年10月に金正日総書記(当時)と南北首脳会談を行った盧武鉉大統領(同)の側近中の側近として知られるだけあり、幹部の間からは「文在寅はわれわれ(北朝鮮)の側だろう」との声すら聞かれるという。
また、経済支援を期待し、まだ何も決まっていないのに早速「これで兵士や特殊機関への配給ができる」との期待の声が上がっているとのことだ。
しかし、北朝鮮当局はこのような雰囲気を警戒し、「道内の党員、勤労者が南朝鮮傀儡(韓国)に対して幻想を持たないように道内の住民の動向を徹底して統制、掌握することについて」との指示を下している。
北朝鮮国民はただでさえ、当局の取り締まりをすり抜けて出回る韓流ドラマのビデオなどを見ながら、資本主義への憧れを強めている。
(参考記事:北朝鮮「金持ち女性」たちの密かな楽しみ...お国の指示もそっちのけ)
それに加え、韓国国民が5ヶ月に及び毎週のように大規模な集会を開き、朴槿恵前大統領を罷免に追い込んだことは、北朝鮮にも衝撃を持って伝えられた。知識層を中心に韓国への憧れがさらに高まっているという。
権力に対し、至極まっとうな要求をしただけで軍隊に殺される国で生まれ育った人々には、民主主義とは文字通り別世界の話なのだ。
(参考記事:抗議する労働者を戦車で轢殺...北朝鮮「黄海製鉄所の虐殺」)
また、その後の選挙戦や投票についても、韓国や米国系のラジオ放送や、韓国に住む3万人の脱北者が送る家族や友人へのメッセージを通じ、いかに公正に行われているかが北朝鮮にも少なからず伝わっているもようだ。
[筆者]
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト)
北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)、『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)、『北朝鮮ポップスの世界』(共著、花伝社)など。近著に『脱北者が明かす北朝鮮』(宝島社)。