ドイツが独自の「EU軍」を作り始めた チェコやルーマニアなどの小国と
EUは2017年3月に合同軍司令部を立ち上げたが、その担当任務はソマリア、マリ、中央アフリカ共和国での軍事訓練に限られており、人員もわずか30名。ほかにも、EU内で多国籍軍が構想されたケースはある。バルト3国と北欧諸国、オランダで結成する緊急対応部隊の北欧戦闘軍(人員2400名)や、バルト3国、スウェーデン、フィンランドなどが加わり「ミニNATO」とも呼ばれるイギリスの統合遠征軍が挙げられる。しかし、このような作戦ベースの連合軍は、具体的な軍事力展開の機会がなければ、存在しないも同然だ。
そこでドイツは、独自の構想を推し進めている。すなわち、ドイツ連邦軍主導により、欧州各国軍の部隊を結ぶネットワークの創設だ。ポーランドのシンクタンク、東欧研究センターに所属する北ヨーロッパ安全保障アナリスト、ユスティナ・ゴトコウスカは、「この計画は、ドイツ連邦軍の弱点を補うものとして構想された」と指摘する。「ドイツは、NATO内での政治的・軍事的影響力を強めるために、(中略)連邦軍における陸上部隊の戦力不足を補う必要があるとの認識に達した」という。
ドイツにとって、EU域内の中小国から支援を仰ぐ取り組みは、手っ取り早い軍事力強化の手段としては最良のものだろう。さらに言えば、ドイツ主導による各国軍部隊の統合は、集団安全保障について真剣に取り組むつもりがあるのなら、ヨーロッパにとって最も現実的な選択肢となる可能性がある。ミュンヘン連邦軍大学のマサラも、この構想について、「ヨーロッパの集団安全保障が完全な失敗に終わることを防ぐ試みだ」との見方を示している。
陸軍ヘリはポンコツばかり
実はドイツ連邦軍の軍備不足は深刻だ。東西ドイツ統一前の1989年、西ドイツ政府(当時)の国防費はGDP(国内総生産)比2.7%だったが、2000年になるとGDP比1.4%まで低下し、長年その状態が続いた。2013年から2016年までの国防費はGDP比1.2%止まりで、NATOが目標値とする2%には遠く及ばない。ドイツ連邦軍総監は、2014年に連邦議会に提出した報告書で悲惨な現状を綴った。なんと海軍が保有するヘリコプターのほとんどは使いものにならず、陸軍も64機のヘリコプターのうち18機しか動かなかった。冷戦時代に37万人を擁した兵力も、昨年夏の時点で17万6015人まで減った。
その後はやや持ち直し、常勤の兵士数が17万8000人以上になった。独政府は昨年の防衛予算を前年比で4.2%増加させ、今年はさらに8%増となる見通しだ。それでもドイツの軍事力はフランスやイギリスに追いつかない。しかもドイツで防衛費を増やすとなれば、軍事大国となった20世紀に2度戦争を仕掛けて敗れた反省から、国民の間で大論争になるのは必須だ。欧州の小国から軍事大国のアメリカまで、NATO加盟国はドイツが世界レベルでもっと大きな軍事的役割を果たすよう促している。だがシグマール・ガブリエル独外相は、ドイツがGDP比2%というNATOが掲げる目標値に到達するという発想自体「まったく現実的でない」と一蹴した。