最新記事
アメリカ経済

トランプ税制改革案、まったく無駄だった100日間の財源論議

2017年4月28日(金)16時00分
安井明彦(みずほ総合研究所欧米調査部長)

こうした減税には、金持ち優遇との批判が絶えない。対象となる収入の半分以上は、年収40万ドル(約4,400万円)以上の高所得者によるものだ。本来ならば所得税の最高税率(現在39.6%、トランプ案では35%)が課されるはずの収入をオーナー収入に分類し、15%の税率で納税する節税術が利用できる。不動産関係でも使われる手法であり、「トランプ大統領自身に対する減税ではないか」という批判も受けやすかった。

ところがトランプ政権の基本方針では、こうした減税を行う方針が改めて確認された。いくら批判されても、金持ち優遇のシンボルは変わらない。やはり議論は振出しだ。

振り出しに戻った代償は大きい

税制改革の基本方針で明らかになったのは、「そう簡単にはトランプ大統領は変わらない」ということだ。どのような批判があろうとも、選挙で示した方針は、まずは実現を試みるのがトランプ流であるようだ。

とくに今回の基本方針は、政権が発足して初めての明確な方針の発表である。すべてはディール、交渉次第と考えるトランプ大統領だけに、これから議会と交渉をしていくにあたって、最初から方針を曲げる必要性は感じなかったのだろう。

実は税制改革以外の分野でも、政権発足100日を前に、「変わらないトランプ」が顔を出している。通商政策である。カナダからの輸入木材に相殺関税を課したり、鉄鋼輸入が米国の安全保障の脅威になっている可能性があるとして、関税等による対応の検討を始める等、ここにきてトランプ政権は、立て続けに保護主義的な動きを繰り出している。バノン首席補佐官など、保護主義を主張してきた側近の凋落が伝えられてはきたものの、貿易不均衡を問題視するトランプ大統領自身が変わらない限り、大きな路線変更は起こらないのかもしれない。

こと税制改革に関しては、100日を費やしても変わらなかったことの代償は大きい。税制改革が実現される時期は、後ずれせざるを得ない状況だ。既にトランプ政権は、今年8月までに税制改革の立法を終えるという目標をあきらめ、年内の成立を新たな目標としている。秋になれば、10月から始まる来年度予算の立法や、債務上限の引き上げも必要になる。課題が山積するなかで、税制改革には越年の可能性すら浮上している。

yasui-profile.jpg安井明彦
1991年富士総合研究所(現みずほ総合研究所)入社、在米日本大使館専門調査員、みずほ総合研究所ニューヨーク事務所長、同政策調査部長等を経て、2014年より現職。政策・政治を中心に、一貫して米国を担当。著書に『アメリカ選択肢なき選択』などがある。

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガリニューアル!
毎日配信のHTMLメールとしてリニューアルしました。
リニューアル記念として、メルマガ限定のオリジナル記事を毎日平日アップ(~5/19)
ご登録(無料)はこちらから=>>

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

EU加盟国、トランプ次期米政権が新関税発動なら協調

ビジネス

経済対策、事業規模39兆円程度 補正予算の一般会計

ワールド

メキシコ大統領、強制送還移民受け入れの用意 トラン

ビジネス

Temuの中国PDD、第3四半期は売上高と利益が予
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 5
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中