トランプ税制改革案、まったく無駄だった100日間の財源論議
こうした減税には、金持ち優遇との批判が絶えない。対象となる収入の半分以上は、年収40万ドル(約4,400万円)以上の高所得者によるものだ。本来ならば所得税の最高税率(現在39.6%、トランプ案では35%)が課されるはずの収入をオーナー収入に分類し、15%の税率で納税する節税術が利用できる。不動産関係でも使われる手法であり、「トランプ大統領自身に対する減税ではないか」という批判も受けやすかった。
ところがトランプ政権の基本方針では、こうした減税を行う方針が改めて確認された。いくら批判されても、金持ち優遇のシンボルは変わらない。やはり議論は振出しだ。
振り出しに戻った代償は大きい
税制改革の基本方針で明らかになったのは、「そう簡単にはトランプ大統領は変わらない」ということだ。どのような批判があろうとも、選挙で示した方針は、まずは実現を試みるのがトランプ流であるようだ。
とくに今回の基本方針は、政権が発足して初めての明確な方針の発表である。すべてはディール、交渉次第と考えるトランプ大統領だけに、これから議会と交渉をしていくにあたって、最初から方針を曲げる必要性は感じなかったのだろう。
実は税制改革以外の分野でも、政権発足100日を前に、「変わらないトランプ」が顔を出している。通商政策である。カナダからの輸入木材に相殺関税を課したり、鉄鋼輸入が米国の安全保障の脅威になっている可能性があるとして、関税等による対応の検討を始める等、ここにきてトランプ政権は、立て続けに保護主義的な動きを繰り出している。バノン首席補佐官など、保護主義を主張してきた側近の凋落が伝えられてはきたものの、貿易不均衡を問題視するトランプ大統領自身が変わらない限り、大きな路線変更は起こらないのかもしれない。
こと税制改革に関しては、100日を費やしても変わらなかったことの代償は大きい。税制改革が実現される時期は、後ずれせざるを得ない状況だ。既にトランプ政権は、今年8月までに税制改革の立法を終えるという目標をあきらめ、年内の成立を新たな目標としている。秋になれば、10月から始まる来年度予算の立法や、債務上限の引き上げも必要になる。課題が山積するなかで、税制改革には越年の可能性すら浮上している。
安井明彦
1991年富士総合研究所(現みずほ総合研究所)入社、在米日本大使館専門調査員、みずほ総合研究所ニューヨーク事務所長、同政策調査部長等を経て、2014年より現職。政策・政治を中心に、一貫して米国を担当。著書に『アメリカ選択肢なき選択』などがある。
【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガリニューアル!
毎日配信のHTMLメールとしてリニューアルしました。
リニューアル記念として、メルマガ限定のオリジナル記事を毎日平日アップ(~5/19)
ご登録(無料)はこちらから=>>