仏大統領選、中道マクロンの「右でも左でもない」苦悩
単独で過半数に届かなければ、他党の協力が不可欠になる。右派左派どちらかの政党と連立政権を組み、その関係に身動きが取れなくなれば、「右でも左でもなく、前に進む」という大義が損なわれる。
手を組むなら、社会党の穏健派が妥当な相手になりそうだ。彼らは自党の大統領候補ブノワ・アモンが「左寄り過ぎる」と不満を抱いている。マクロンの親EU路線と、再生可能エネルギー分野を中心とする公共支出拡大政策も受け入れやすい。
ただし社会党と協力すれば、今回はマクロンに投票した共和党のリベラル派も、次の22年の大統領選で共和党支持に舞い戻ることも考えられる。
一方で、マクロンは週35時間労働制の見直しや年間600億ユーロの歳出削減を掲げるなど、経済政策は社会党よりかなり右寄りだ。従って共和党も取り込んでおけば、公約の実現には有利だろう。ただし、マクロンの中心的な支持者は左派出身者が多く、彼らは共和党との接近に困惑するだろう。
「前進!」は全選挙区に候補者を立てる予定であり、単独で過半数を得られるとマクロンは主張する。だが、そこには大きな課題がある。
世間にとって「前進!」のアイデンティティーは、「何者か」というより「何者ではないか」だ。「前進!」のアルノー・ルロワ副代表は、「極右ではない」と自分たちを定義する。「(私たちは)フランスの民主主義にとって、ルペンに滅ぼされる前の最後のチャンスだ」
そのような主張は、大統領選の決選投票では「ルペン阻止」の票を集められるかもしれないが、総選挙のメッセージとしては弱い。
【参考記事】極右ルペンの脱悪魔化は本物か
仏政界は未知の領域へ
「前進!」はフランス政治の因習を打ち破るという主張もある。「左派」「右派」は世界共通の政治用語だが、起源はフランス。革命期の1789年の国民議会で、議長席から見て左側に急進革命派が、右側に王党派が座っていたことに由来する。
「『前進!』が左か右かを気にするのは、識者とフランスのジャーナリストだけだ」と、広報担当のバンジャマン・グリボーは言う。「私たちは私たちが信じることをやる。だからこそ政策提言に一貫性がある」
しかし、どこからともなく現れた新しい中道政党がフランスの議会で過半数を獲得した前例はないと、ロンドン大学ユニバーシティーカレッジのフィリップ・マルリエール教授(フランス・ヨーロッパ政治)は言う。
「フランスには、政治的な中道は存在しないという考え方がある。フランスでは左も右も、もう古い。重要なのは考えであり、人格であり候補者だ。(「前進!」は)今や力強い新勢力になっている。今後の展開は全く分からない」