北京を超えた世界最悪の汚染都市ウランバートル
家畜を失い首都に逃れた人々が暖を取り調理する煙で苦しむことに Rentsendorj Bazarsukh-REUTERS
<都市部に流入した遊牧民のゲルから吐き出される煙が、モンゴルの首都ウランバートルを悩ませる>
夕暮れかと思うほど辺りは薄暗いが、まだ午前11時。モンゴルの首都ウランバートルは黄色っぽいもやに包まれている。辺りに立ち込める煤煙(ばいえん)に混じって、時々強烈な異臭が鼻と喉を刺す。プラスチックを燃やす臭いだ。
ウランバートルは今や世界最悪クラスの汚染都市。昨年12月には大気汚染のレベルが北京の5倍にも達した。
都心にはモダンな高層ビルが立ち並び、周りにひしめく旧ソ連様式の殺風景なコンクリート建物群を見下ろしている。さらにその周りには18万戸もの移動式住居ゲルがひしめく。
ゲルは首都に新たに流入した人々の住まいだ。ゲルの住民がストーブで燃やすために立ち木を切り尽くし、一帯には切り株ばかりが残されている。
この30年ほどで、モンゴルの人口の約2割に当たる60万人が首都に移住した。原因はゾド(寒雪害)と呼ばれる異常気象だ。極端な寒さと大雪で家畜が大量に死んだために、多くの遊牧民が伝統的な遊牧生活を続けられなくなっている。
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ゾドは周期的に繰り返されてきたが、近年になって発生頻度が高まり、特にモンゴルのゴビ砂漠地域で深刻な被害が出ている。09~10年の冬には記録的な寒さによって800万頭近い家畜が死に、遊牧民9000世帯が生活の糧を失った。
昨年もゾドが発生し、100万頭の家畜が死んだ。被災者支援の体制が整っていないため、家畜を失った遊牧民は都会に出て働くしかない。
彼らはゲルを持ち込んで首都郊外に住み着く。ゲルの中央部には長い煙突が付いた石炭ストーブがあり、住民はこれで暖を取り、煮炊きをする。皮肉なことに、ゲルの生活に欠かせないこのストーブが汚染の元凶になっている。WHO(世界保健機関)によると、ウランバートルの大気汚染の8割はゲルのストーブによるものだ。
特に懸念されるのは、人間の健康を脅かす微小粒子状物質(PM2.5)が大量にまき散らされること。ウランバートルでは昨年12月16日、PM2.5が1立方メートル当たり1985マイクログラムという最高値を記録した。
WHOが推奨する安全値である1日の平均値25マイクログラムの80倍近い値だ。WHOは、今後10年で状況はさらに悪化すると予測している。