最新記事

環境

北京を超えた世界最悪の汚染都市ウランバートル

2017年4月5日(水)10時30分
エレノア・ロス

ウランバートルではこの冬、大気汚染に関連した子供の肺炎が激増し、市内の病院はどこも満杯になった。モンゴル全体でも、汚染関連の肺炎が乳幼児の死因の第2位で、全体の15%を占めている。

サイモン・フレーザー大学(カナダ)のライアン・アレン准教授が11年に発表した論文によると、ウランバートルでは住民の死亡の1割が大気汚染に関連した疾患によるものだという。

モンゴル全体では心肺疾患による死亡の29%、肺癌による死亡の40%が大気汚染関連とみられるとの報告もある。

【参考記事】トランプ、想像を絶する環境敵視政策が始まった──排ガス規制の米EPAに予算削減要求とかん口令

人口集中に打つ手なし

ウランバートルでは冬には気温が氷点下30度まで下がる。ゲルで暮らす人々にとって、ストーブなしの生活はあり得ない。

それでも汚染のひどさにたまりかね、首都の住民は今年に入って2回大規模な抗議デモを決行した。1月末には氷点下20度の極寒の中、マスクをした大勢の人々が黒い風船を手に都心に集結。旧ソ連の影響下にあったウランバートルでは今でもデモはめったに起きないが、健康被害の深刻さが人々を行動に駆り立てた。

ウランバートルの地形も汚染を悪化させる一因だと、アレンは言う。「山に囲まれた盆地で、あまり風が吹かないため、汚染された空気が滞留しやすい」

事態を見兼ねて民間の支援団体も動き始めた。「14年以降、(民間機関が)リアルタイムの大気汚染情報を発表している。WHOも公報で汚染状況を市民に知らせるようモンゴル政府に働き掛けている」と、WHOモンゴル事務所の広報担当デルゲルマー・バンヤは言う。

クラウドファンディングで資金を集め、啓発活動を行い、マスクの配布や空気清浄機の寄贈に取り組む団体もある。3万7000ドルを集めて病院や学校に100台の空気清浄機を贈る運動では、5日間でほぼ4台の購入資金に相当する1400ドルが集まった。

ただ残念ながら、マスクは気休めにしかならないと、ロンドン大学インペリアルカレッジで大気汚染管理の講義を行うオードリー・ドネイゼルは言う。PM2.5のような微小粒子はマスクを通過して肺の中まで入り込むからだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米10月求人件数、1.2万件増 経済の不透明感から

ビジネス

次期FRB議長の条件は即座の利下げ支持=トランプ大

ビジネス

食品価格上昇や円安、インフレ期待への影響を注視=日

ビジネス

グーグル、EUが独禁法調査へ AI学習のコンテンツ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【クイズ】アジアで唯一...「世界の観光都市ランキング」でトップ5に入ったのはどこ?
  • 3
    中国の著名エコノミストが警告、過度の景気刺激が「財政危機」招くおそれ
  • 4
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 5
    「韓国のアマゾン」クーパン、国民の6割相当の大規模情…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「1匹いたら数千匹近くに...」飲もうとしたコップの…
  • 8
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    ゼレンスキー機の直後に「軍用ドローン4機」...ダブ…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 7
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 8
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 9
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 10
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中