25日に何も起こらなくても、北朝鮮「核危機」は再発する
なによりも今回の事態を通じて、金正恩が「やっぱり米国は攻めてこられない」という自信を深めるかもしれない。
金正日時代と金正恩時代における核戦略には大きな違いがある。父・金正日は、見返りがあれば核とミサイルを放棄することを想定していただろう。しかし、金正恩は米国を攻撃可能な「核武装国家」を目指している。核弾頭を搭載し、米本土に着弾可能な核ミサイルが完成すれば、今以上に米国は北朝鮮に手出しできなくなる。そうなれば、金正恩体制が続く限り、北朝鮮は日本に対して脅威を与え続ける国家となりうる。
断言するが、金正恩が核武装国を目指す限り、同じ事態は来年、または数年後に再発するだろう。そして、時が経てば経つほど金正恩にとって有利な環境が作られていく。この負の連鎖を断ち切るためには、理想論かもしれないが、金正恩体制が変革するしかない。
北朝鮮は、頂点に立つ指導者が全てを決定するという超独裁国家である。その姿勢を変えるためには、内部からの変革の要求とそれをサポートする外部からの働きかけが必要だ。
現在も、北朝鮮の民主化を目指す韓国の複数のNGOが、この命題に果敢にチャレンジしている。北朝鮮民衆の意識変化を促すために、硬軟織り交ぜた情報を北朝鮮国内へ流入させるなどの情報戦も展開している。その結果、多くの北朝鮮国民が海外の情報に接しながら、金正恩体制が極めてマズい方向へ進んでいるということをうすうす感じつつある。
(参考記事:「いま米軍が撃てば金正恩たちは全滅するのに」北朝鮮庶民のキツい本音)
しかし、その意識変化が政治的な動きへ発展するにはまだまだ時間がかかるだろう。こうした動きに周辺国、とりわけ日米韓が本気で取り組むことができるのか。それとも何年かに一度のサイクルで発生する北朝鮮クライシスを甘んじて受け入れるのか。
国際社会、とりわけ日本、米国、そして韓国は、時が経てば経つほど、ソフト・ランディングの可能性が低くなっている状況を冷静に認める時が来ている。そのうえで、脅威であり続ける北朝鮮にどう対峙するのか、本気で考えなければならない。
【ニューストピックス】朝鮮半島 危機の構図
[筆者]
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト)
北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)、『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)、『北朝鮮ポップスの世界』(共著、花伝社)など。近著に『脱北者が明かす北朝鮮』(宝島社)。