最新記事

情報セキュリティ―

サイバー銀行強盗の背後に北朝鮮が

2017年3月31日(金)10時00分
イライアス・グロル

最高指導者の金正恩はサイバー軍団を率いているのか? KCNA-REUTERS

<銀行からの大金強奪の背後に北朝鮮が関与していたことが発覚。サイバーセキュリティ業界は警戒を強めている>

制裁に次ぐ制裁で資金的に追い込まれた北朝鮮がついに銀行からカネを強奪したようだ。それもサイバー攻撃で。

ニューヨーク連銀にあるバングラデシュ中央銀行の口座から昨年、不正な送金指示で数千万ドルが盗み出された事件。その背後に北朝鮮のハッカーがいたと米国家安全保障局(NSA)の高官が先週、暗に認めた。

ハッカーは9億5100万ドルの不正送金を試みたが、実際に送金できたのは8100万ドル。事件後、いくつものセキュリティー企業が北朝鮮の関与を指摘したが異を唱える専門家もいた。

だが先週、NSAのリック・レッジェト副長官は米シンクタンクの会議で、北朝鮮が背後にいたことをにおわせた。彼は民間の専門家が、今回の事件と14年に起きたソニー・ピクチャーズへの攻撃を関連付けたことを指摘した。ソニーの事件は北朝鮮による犯行だと、米政府は考えている。

この2つの事件の関係者がつながっているなら「国家が銀行から強奪したことになる」と、レッジェトは言う。

レッジェトは、NSAが事件に関してつかんだ証拠を明かしていない。しかし彼は、北朝鮮の関与を疑う見方のほうが「もっともだ」と、語っている。

【参考記事】サイバー戦争で暗躍する「サイバー武器商人」とは何者か

北朝鮮のハッカーが銀行から大金を盗もうとしたことに、サイバーセキュリティー業界は警戒を強めている。事件の手口は技術的に洗練されており、サイバースペースにおける北朝鮮の高い能力と大胆さを印象付けるものだと、コンピューターセキュリティーの専門家は言う。

事件の背景には、北朝鮮での資金需要の高まりがある。国連は対北朝鮮制裁を進め、北朝鮮が外貨獲得のために中国に設立したフロント企業を調べている。

国際社会は、一連のミサイルと核実験を行った北朝鮮への圧力を強めている。ティラーソン米国務長官は最近、北朝鮮の核開発計画に対し、アメリカは先制攻撃を行う用意があると語った。中国も反抗的な北朝鮮への不満から、石炭輸入を停止した。

銀行から多額のカネを強奪すれば、北朝鮮は制裁を受けても外貨を獲得できる。北朝鮮の悪事がばれずに成功したことはあまりないのだが。

From Foreign Policy Magazine

[2017年4月 4日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ大統領、イラン最高指導者との会談に前向き

ビジネス

トランプ氏「習主席から電話」、関税で米中協議中と米

ワールド

ウクライナ和平案、米と欧州に溝 領土や「安全の保証

ビジネス

トヨタ創業家が豊田織に買収・非公開化を提案=BBG
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは?【最新研究】
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    日本の10代女子の多くが「子どもは欲しくない」と考…
  • 5
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 6
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 7
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 8
    【クイズ】世界で最もヒットした「日本のアニメ映画…
  • 9
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 10
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 1
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 2
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はど…
  • 9
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 10
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 8
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中