最新記事

<ワールド・ニュース・アトラス/山田敏弘>

オランダ極右党首に巨額献金する「トランプ一派」の思惑とは

2017年3月15日(水)16時00分
山田敏弘(ジャーナリスト)

例えば、トランプを裏で操る人物とすら言われているスティーブン・バノン首席戦略官兼上級顧問や、現在偽証疑惑で窮地にあるジェフ・セッションズ司法長官、さらに政策担当のスティーブン・ミラー大統領補佐官とは自らその蜜月ぶりをアピールしている。ミラーについては、自分が彼を育てたと言わんばかりだ。

また、バノンがトランプ陣営に加わる前に運営していた極右サイト「ブライトバート」に今も頻繁に寄稿している。

反イスラム移民など排他主義的な言動で騒がれていたウィルダースを、わざわざアメリカから支援するのは、ホロウィッツにしてみれば自然なことだったらしい。もともと公然と排他的な立場を取ってきたホロウィッツは、ウィルダースの極右路線に共鳴している。

以前のインタビューでホロウィッツは、「ウィルダースは、欧州のポール・リビアだ」と称賛し、「言論の自由を守るという現代の最も重要な戦いにおいて、彼こそが時代の英雄だ」と述べている。(ちなみにポール・リビアとは、アメリカの独立戦争前に、ボストンでイギリス軍の奇襲を監視した愛国者として語り継がれる人物)

ホロウィッツ側は、寄付金は政治活動のための支援金ではなく、ウィルダースがヘイトスピーチなどで裁判になっていた件の費用を援助するためのものだったと言い訳をしている。

ただ政治資金として記録されている以上、この言い訳には無理があるし、逆に怪しさが残る。ちなみにイスラムに対して否定的な他の有名アメリカ人歴史家も、裁判費用としてウィルダースに金を援助していることが分かっている。

他国の選挙に干渉するというのは、言うまでもなく主権侵害だ。アメリカの偏った思考の人たちが他国の政治家を金銭面で支援するのは、2016年の米大統領選を操作しようとサイバー攻撃を行なったロシアと、根本的には同じ考え方だと言えるだろう。オランダは政治資金の規制が緩いために、こうした事態が起きているという指摘もある。

【参考記事】欧米で過激な政党が台頭する本当の理由

では、目前に迫ったオランダ総選挙で、ウィルダースは議席をどこまで増やせるのか。

もともとオランダではいくつもの小規模な政党による連立政権になることが多く、今回の選挙でも、150議席をめぐって、8つの小さな政党がそれぞれ10議席程度を獲得すると見られている。

現状ではウィルダースの自由党と連立政権を組みたい政党がないために、仮に自由党が議会で第1党になっても、政権を取る可能性は低い。他の政党が連立を組んで過半数の議席を獲得してしまう見通しだからだ。

それでも、自由党がこれまでにない躍進を見せるだけでも、昨年からの「潮流」が続いている証となり、4月に控えているフランス大統領選に勢いを引き継ぐ可能性はある。

そうなれば、アメリカのトランプ一派がほくそ笑むことになるだろう。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 3
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 6
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 7
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 8
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 9
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 10
    強烈な炎を吐くウクライナ「新型ドローン兵器」、ロ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中