最新記事

テクノロジー

ほぼ水なしで洗う究極のエコ洗濯機

2017年3月15日(水)10時50分
アンソニー・カスバートソン

ポリマーのビーズで汚れを吸収する技術は、10年前に英リーズ大学で開発された COURTESY XEROS

<ビーズを使って水を90%節約できる業務用洗濯機が、水不足に悩むカリフォルニアで可能性を見せつけている>

約2年前、ロブ・ヘーゲルは衝撃的な出会いをした。相手は「魔法のビーズ」。ロサンゼルスにあるヒルトンホテルの購買担当責任者としてニューヨークの見本市を訪れていたヘーゲルの手に、ある人物が白く細かいビーズの詰まった小さな試験管を渡したのだ。「これで大変なお金が節約できるだけでなく、環境も保護できると言われた」と、ヘーゲルは言う。

その年、カリフォルニア州の川とダムの水位は記録的な低さだった。当時のジェリー・ブラウン知事は、干ばつ非常事態宣言を出し、厳しい対策を実施。できる限りの節水を求めた。

ホテルの節水対策を模索していたヘーゲルは、販売員の話に興味を抱いた。実はこの「魔法のビーズ」、英ベンチャー企業ゼロスが開発した超節水型洗濯機の決め手となる物質だった。

販売員は、ゼロスの洗濯機なら従来型に比べて電気代は50%、洗剤も50%、水は80%節約でき、しかも仕上がりは従来型をしのぐと言った。ヘーゲルは半信半疑だったが、ホテルでは大量のリネン類を洗濯するため、試しに1台購入することにした。

ヘーゲルとホテルのスタッフは驚いた。ゼロス製洗濯機の性能は、販売員の売り文句をしのぐものだったのだ。「水は90%節約でき、洗剤はほとんど要らず、仕上がりも素晴らしかった」と、ヘーゲルは言う。「客室担当責任者は有頂天だった」

ゼロスの洗濯機に使われているビーズの技術は、10年前に英リーズ大学で開発された。細かいポリマーのビーズと少量の水に特殊な洗剤を混ぜると、洗剤が布地から汚れを「吸収」するスポンジの働きをする。こうして生まれた洗濯機は、20世紀初めに登場した電気洗濯機以来の画期的な発明になり得る。

【参考記事】疑わしきは必ず罰するマンモグラフィーの罠

手洗い並みに布に優しい

ゼロスによれば、約150万個のビーズを使う同社の技術は手洗い並みに布地に優しく、従来の洗濯機より布地の傷みが少ない。さらに色物と一緒に洗濯しても白い洗濯物に色が付く心配がない。ビーズは汚れだけでなく、落ちた色素も吸収する。しかも、数百回は再利用できる。

水不足のカリフォルニアで、ゼロスの洗濯機は州内14カ所に設置されている。導入拡大を図る上での難題は、ホテルや他の企業に、ビーズが水よりも効率の高い洗濯法であることを理解してもらうことだ。

「昔は川で衣服を洗っていたから、洗濯は水でするものだという固定観念がある」と、ゼロスのジョナサン・ベンジャミン国際市場担当社長は言う。

同社は水集約型の革の加工業など他分野への応用も試みている。「洗浄や染色などの分野で、ビーズには途方もない可能性がある」と、ベンジャミンは言う。「ポリマーのビーズで入浴する時代はまだ遠いかもしれないが、どうなるか分からない」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

焦点:アサド氏逃亡劇の内幕、現金や機密情報を秘密裏

ワールド

米、クリミアのロシア領認定の用意 ウクライナ和平で

ワールド

トランプ氏、ウクライナ和平仲介撤退の可能性明言 進

ビジネス

トランプ氏が解任「検討中」とNEC委員長、強まるF
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプショック
特集:トランプショック
2025年4月22日号(4/15発売)

大規模関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 2
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はどこ? ついに首位交代!
  • 3
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 4
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 5
    「2つの顔」を持つ白色矮星を新たに発見!磁場が作る…
  • 6
    300マイル走破で足がこうなる...ウルトラランナーの…
  • 7
    今のアメリカは「文革期の中国」と同じ...中国人すら…
  • 8
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 9
    トランプ関税 90日後の世界──不透明な中でも見えてき…
  • 10
    米経済への悪影響も大きい「トランプ関税」...なぜ、…
  • 1
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 3
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最強” になる「超短い一言」
  • 4
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 5
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気では…
  • 6
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇…
  • 7
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトラ…
  • 8
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 9
    動揺を見せない習近平...貿易戦争の準備ができている…
  • 10
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 6
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 8
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中