最新記事

北朝鮮

金正男殺害を中国はどう受け止めたか――中国政府関係者を直撃取材

2017年2月20日(月)07時36分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

意外だったのは、彼が「しかし今や最も信用できないのは韓国だ!」と言ったことだ。

「中国を向いていたかと思うと、突然アメリカを振り向いたり、結局のところTHAAD(終末高高度防衛ミサイル)を韓国に配備するつもりだ。THAADの配備は北朝鮮のためではなく、中国を見張るために配備するに決まっている。韓国ほど信用のできない国はない!」と吐き捨てた。

THAADの韓国配備という点において、中韓あるいは米中が妥協点を見い出す可能性はないことになろう。

となれば、中朝接近を招くのかと懸念されるが、中国商務部は2月18日、北朝鮮からの石炭の輸入を19日から年末まで暫定的に停止すると発表した。ただ中国としては、制裁によって北朝鮮の暴走が抑えられることはなく、逆に核・ミサイル能力を急速に強化させる結果を招いているので、アメリカのトップが北朝鮮の要求(願望)に応じて会談をし、あくまでも六カ国会議で北の問題を解決すべきだとしている。

話し合いなどという外交手段が通じる状況ではないとは思うが、トランプ大統領は選挙期間中、金正恩委員長と会うこともやぶさかではない趣旨の発言をしている。その可能性はマティス国防長官の訪韓によって消えたようにも見える。

しかし、もし中国が本気になれば、北朝鮮の経済状況を一気に破綻させることだってできるはずだ。そのことを迫ると、中国政府関係者は「人道の問題がある」と言う。そればかりは偽善というか、言い逃れとしか思えない。突然、話に整合性がなくなる。

「金正恩は国民が餓死してでも、核・ミサイル開発にはお金を注ぐのではないのか」とさらに迫ると、「中朝同盟がある」と苦しげだ。

結局のところ、中国は北がアメリカの配下という形で滅んでほしくないし、アメリカの軍事力を頼りに韓国が北朝鮮を統一させるということも、もちろん最も警戒している。

中国が中朝同盟を破棄して、北朝鮮への一切の支援を断ったときに、北朝鮮がいかなる自滅の道をたどるのか、あるいは逆に自暴自棄になって暴走した結果、戦争になるのか、そのシミュレーションが必要になろう。このままでは金正恩体制は恐怖政治を加速させ、さらなる核・ミサイル開発へと突進していくだけだ。


endo-progile.jpg[執筆者]遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会科学研究所客員研究員・教授などを歴任。『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』『チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男』『完全解読 中国外交戦略の狙い』『中国人が選んだワースト中国人番付 やはり紅い中国は腐敗で滅ぶ』『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』など著書多数。近著に『毛沢東 日本軍と共謀した男』(新潮新書)


※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

この筆者の記事一覧はこちら≫


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ゴールドマン、24年の北海ブレント価格は平均80ド

ビジネス

日経平均は3日ぶり反発、エヌビディア決算無難通過で

ワールド

米天然ガス生産、24年は微減へ 25年は増加見通し

ワールド

ロシアが北朝鮮に対空ミサイル提供、韓国政府高官が指
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 7
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中