最新記事

北朝鮮

金正男クアラルンプール暗殺 北朝鮮は5年前から機会を狙っていた

2017年2月15日(水)13時45分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部


見た目と違う正統派エリートだった

金正男は、北朝鮮の金正日の長男でかつては後継者と目されたこともある人物だ。金正日と成恵琳の間に1971年に生まれた。1980年、スイスのジュネーブに留学し、80年代後半ジュネーブ大学で政治外交学を専攻。ここで開放的思考を身につけたとみられる。90年代、北朝鮮に帰ってきた後には後継者としての教育も受けたと伝えられた。

しかし、開放的な考えを持ったことや、実母・成恵琳が金正日と正式に結婚していない関係だったことも障害物になった。さらに、2001年5月には息子と2人の女性と一緒に偽造パスポートで日本に不法入国しようとして強制送還された事件を起こして、金正日に見放されたという噂が出回った。

異母弟である正恩が後継者となって以降は、北朝鮮には戻らずにアジアを中心に海外を転々としていた。最近では内縁の妻がいると知られているマレーシアとシンガポールを行き来しながら過ごしていることが知られている。

なぜ今、暗殺されたのか?

独裁体制を強固なものにした金正恩が、海外に長く逗留し、北朝鮮とはまったく関わらなくなった金正男を今、暗殺することなどあり得るのだろうか?

聯合ニュースなど韓国メディアによると15日午前、国家情報院(かつてのKCIA)のイ・ビョンホ院長が「(北朝鮮側は)5年前から暗殺をしようと試みてきた」と明らかにした。また、中国が金正男を保護していたのかという質問に対して「(保護)していた」とイ院長は回答した。中国との関係悪化の危険を冒してまで暗殺を実行するだろうかという質問には「(金正恩の)性格のせいではないでしょうか。それが13日に行われただけです」と述べた。

マレーシア空港からマカオ行きの便に搭乗しようとしていたことに関しては「1週間前に来て家族たちのもとに行こうとしていた。(金正男の長男の)金漢率(キム・ハンソル)もマカオにいると聞いている」と語ったという。

国家情報院は、金正男が殺害された3〜4時間後には、これを確認していたことも明らかになった。

金正恩の血統コンプレックス

韓国メディア京郷新聞によれば、金正男の暗殺はこれまでにも何度も計画されたが失敗していたという。実際に金正恩が権力の座に上がった直後の2010年、金正男は北京で北朝鮮の工作員により暗殺されそうになったという事件があった。また2012年病気療養のためシンガポールを訪問した叔母の金敬姫から「北朝鮮による暗殺工作の可能性がありますので、注意してください」という警告を受けたとも伝えられている。

ここまで、金正恩が敵視するのは「血統コンプレックス」が大きく作用したようだ。正恩の母である高英姫は元在日朝鮮人帰国者で、金正日の3番目の妻である。一方、金正男は、金正日の長男で、父と祖父の金日成から目をかけられて育った正統の血統なのだ。

北朝鮮情勢の専門家の分析として「血統を重視する北朝鮮内部の権力機構の中では劣等感を持った金正恩が成長の過程で異母兄弟に反感と恐れを持つようになったのは当然だ。最高権力者の座を交換することができる唯一の正統の血統をもつ男が、自分の手の外で活動しているということ自体が、金正恩には大きな脅威だ」と京郷新聞は報じている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場・寄り付き=ダウ約300ドル安・ナスダ

ビジネス

米ブラックロックCEO、保護主義台頭に警鐘 「二極

ビジネス

FRBとECB利下げは今年3回、GDP下振れ ゴー

ワールド

ルペン氏に有罪判決、被選挙権停止で次期大統領選出馬
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 4
    「炊き出し」現場ルポ 集まったのはホームレス、生…
  • 5
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 8
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大…
  • 9
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 10
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 10
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中