シリアで起きていることは、ますます勧善懲悪で説明できない
二つのアル=カーイダ系組織を軸に離合集散する反体制派
対立はこれにとどまらなかった。1月24日、今度はシャーム・ファトフ戦線本体が、ザーウィヤ山一帯を含むイドリブ県北部とアレッポ県西部(およびアレッポ市西部郊外)で、ムジャーヒディーン軍、シャームの鷹旅団、シャーム戦線の拠点を制圧していった。窮地に立たされた3組織は、シャーム自由人イスラーム運動に支援を求め、「忠誠」(バイア)を表明した。また、イスラーム軍(イドリブ地区)、シャーム戦線(西アレッポ地区)、「命じられるまま正しく進め」連合、シャーム革命家大隊も、シャーム・ファトフ戦線の侵攻から身をまもるべく「忠誠」を表明し、シャーム自由人イスラーム運動は26日、これらの組織を吸収するとの声明を出したのである。
シャーム・ファトフ戦線もこれに対抗し、「穏健な反体制派」として知られていたヌールッディーン・ザンキー運動、ハック旅団、アンサールッディーン戦線、スンナ軍と1月28日に共同声明を出し、シャーム解放委員会という新組織として完全統合すると発表、力によって反体制派の統合を進めるとの意思を表明した。指導者には、シャーム自由人イスラーム運動の元司令官のアブー・ハーシム・ジャービルが就任し、ファトフ軍(シャーム・ファトフ戦線、シャーム自由人イスラーム運動などからなる軍事連合体)を実質統括してきたサウジアラビア人説教師のアブドゥッラー・ムハイスィーらも新組織に合流した。
反体制派内部の再編がどのように決着するのかはきわめて不透明だ。だが、一連の動きから見えてくるのは、和平交渉の当事者となるべき「正当な反体制派」と「テロとの戦い」の標的となる「テロ組織」の峻別が、これまで以上に実現性を欠いた「ミッション・インポシブル」となっているという現実である。二つのアル=カーイダ系組織を軸に離合集散する反体制派は、とらえどころのない存在となっており、和平協議の当事者としての資質さえも失おうとしている。