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映画理不尽な世界に生まれ死んでいく人間の不条理──『なりゆきな魂、』
漫画家つげ義春を兄に持つ、つげ忠男の短編漫画「成り行き」「夜桜修羅」「懐かしのメロディ」「音」の4本。さらに、瀬々監督のオリジナルエピソード「バス事故に運命を翻弄される人々」を加えて紡ぎ上げた、魂の作品の登場です。
戦後間もないバラックに囲まれた広場で米兵に向かっていく無頼漢を見つめる少年。釣りに出かけのどかな時間を過ごしていたはずなのに、男女の争いに巻き込まれ、殺人を犯してしまうふたりの老人。桜の木の下で初めて出会った男女の殺し合いを凝視する初老の男。偶然の積み重なりで生死を分けたバス事故により一瞬にして遺族となったことに困惑し、葛藤する人たち。行きどころなく彷徨う老人の白昼夢......。それぞれのエピソードは深く絡まり合うことはないままに、ほんの小さなきっかけから、人々が「生と死の狭間」に吸い寄せられていく様子が多重奏のように描き出されます。
(参考記事:マーティン・スコセッシが「遠藤周作」の原作を完全映画化した、『沈黙-サイレンス-』がいよいよ公開!)
ひとりひとりの存在感を生々しく演出するのは、瀬々敬久監督。低予算、短期間で制作され、作家性の強い作品を排出し日本映画を支えたピンク映画の出身ですが、ドキュメンタリーも含め、インディペンデントからメジャー大作まで幅広い作品を世に送り出してきました。4時間38分の大長編、近作『ヘブンズストーリー』(2010)ではベルリン映画祭国際批評家連盟賞も受賞しています。理不尽な世界を見据え、理不尽な人生から目をそらさずに描ききるその力を、本作でも存分に発揮しているといえるでしょう。
作品中の「自分だけはいつまでも生きているように思って......」という台詞、みなさんも心当たりがあるのでは。つげ忠男を佐野史郎、釣りをしていた老人・花村を柄本明、そのほか個性派俳優たちの立ち居振る舞いは演技とは思えず、作品のリアリティをさらに増幅させています。まさに我々の日常のすぐ隣に、生と死の狭間が存在することを感じずにはいられなくなることでしょう。
©ワイズ出版
『なりゆきな魂、』
監督・脚本/瀬々敬久
原作/つげ忠男「成り行き」「つげ忠男のシュールレアリズム」より
出演/佐野史郎、足立正生、柄本 明
2017年日本/107 分
配給/ワイズ出版
2017年1月28日より、ユーロスペース(渋谷)にてロードショー
第七藝術劇場(大阪)、シネマテーク(名古屋)、シアターキノ(北海道)、
桜井薬局セントラルホール(仙台)、ジャック&ベディ(横浜)ほか全国順次公開予定