最新記事

映画

オリバー・ストーン監督が描く愛国者スノーデンの裏切り

2017年1月27日(金)10時40分
ザック・ションフェルド

©SACHA, INC. ALL RIGHTS RESERVED.

<リベラル派からの視点で捉えた映画『スノーデン』は、彼の複雑な人間性を浮かび上がらせる>(写真:ゴードン・レビット〔左〕の演技は見事で、恐怖感がじわじわと伝わる)

 国家安全保障局(NSA)の職員は恋人にしないほうがいい――それがオリバー・ストーン監督の政治スリラー『スノーデン』の最も確かな教訓かもしれない。

 恋人にすれば苦労が絶えない。映画ではエドワード・スノーデン(ジョゼフ・ゴードン・レビット)と彼の長年の恋人リンゼイ・ミルズ(シャイリーン・ウッドリー)が、東京やハワイで口論を繰り返す。

 彼女が欲求不満を募らせるのも無理はない。スノーデンは不機嫌でよそよそしく、国家機密について日夜考え込んでいる。彼女がパソコンに入れた自分のヌード写真を見せると、「消去しろ」とそっけない。むっとした彼女は言う。「私のおっぱいが国家安全保障上の重大事と見なされるなら光栄だわ」

 だが自分の私生活を国家にのぞかれて光栄だと思う人はいないだろう。だからこそNSAが何百万ものアメリカ人の個人的な通信を傍受していたと知って、全米中が怒った。

 スノーデンの私生活はどうか。

【参考記事】スコセッシ『沈黙』、残虐で重い映像が語る人間の精神の勝利

 2013年に内部告発に踏み切るまで、彼はほぼ無名だった。私生活もほとんど知られていないが、この映画ではたっぷり描かれている。負傷によって04年に特殊部隊を除隊になったこと。「コンピューターの天才」としてCIAに入ったこと。持病のてんかんの苦しみ。そして元気のいいダンサー、ミルズとの関係。

 スノーデンはストーン作品のヒーローの典型だ。2時間余りのドラマで彼の愛国心はパラノイアへと変わる。この映画はストーンが06年の『ワールド・トレード・センター』、08年の『ブッシュ』に続き、9・11テロとその余波をテーマにした作品だ。しかし物語のパターンは89年の『7月4日に生まれて』で使ったもの。理想に燃えた若者が政府機関か軍隊に入り、腐敗に幻滅し、反逆者になっていく。

『7月4日』には戦闘場面があったが、『スノーデン』にあるのはデータのみ。それで観客の目をクギ付けにするのは難しい。ストーンは91年の『JFK』と同様、本物のニュース映像を挿入し、大量の情報が渦巻く現代社会を表現する。ロマンスにはあまり関心がないようで、数少ないセックスシーンでは恋人たちではなく、ウェブカメラの監視の「目」にズームインする。

 ゴードン・レビット演じるスノーデンは物静かで内向的。そのため演技の素晴らしさが見逃されかねないが、巨大な監視システムを前にした彼の恐怖がさりげないしぐさでじわじわ伝わってくる。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 8
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 9
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中