最新記事

中国

米中、日中、人民元、習体制――2017年の中国4つの予測

2017年1月12日(木)16時54分
高口康太(ジャーナリスト、翻訳家)

「もし王が留任すれば、それは習近平体制の3期目にゴーサインが出たと理解するべきでしょう。2022年の党大会時点で習近平総書記の年齢は69歳。今の王氏と同じです」と水彩画氏。

 日本への亡命状態にある中国人風刺漫画家の辣椒(ラージャオ)氏も「習近平は反汚職運動で多くの政敵を追い落としました。もしトップの地位を手放せば今度は自分が標的になるかもしれませんし、その時は死刑すらありうるかもしれません。その恐怖から権力の座を手放さないでしょう。長期政権を築くのは確実だと考えています」と指摘する。

 毛沢東以来の権威を得たとされる習近平総書記が長期政権を築くのかどうか、今秋明らかになる。

(3)政府は難題「人民元流出」を止められるか

 2012年秋の習近平体制発足後、中国経済は毎年のように大事件に見舞われてきた。2013年にはシャドーバンキング問題、2014年には過剰生産能力、2015年には株価急落、2016年には人民元流出......。毎年の難題をさばいてきた経済運営の手腕を讃えるべきか、モグラ叩きのように一つの問題を押さえ込んでも次の問題へとつながる中国経済の不安定さを懸念するべきなのかは悩ましい。

 それでも経済成長率は高水準をキープし、2016年も6.5%の目標を達成している。今年も難題を抱えつつも、一定レベルの成長を実現するだろう。

 さて、今年の難題はなんなのかが気になるところ。現時点では昨年から続く人民元流出が熱い。

 中国の中央銀行である中国人民銀行が1月7日に発表した統計では、2016年末の外貨準備高は前年比3198億ドル減の3兆105億ドルと発表された。2015年も5126億ドルのマイナスだっただけに、2年累計で8000億ドルを超える大幅減となった。3兆ドルという大台割り込みも近い。

 もう一つの大台が人民元レートだ。9日時点のレートは1ドル=6.9375元。2013年には1ドル=5元台が見えるところにまで迫ったが、その後は下落が続きもはや7元台突入が秒読みとなっている。

 外貨準備の減少は中国当局による為替介入が要因だ。当局はさらに予想外の介入手段も持ち出している。

 第一に香港のオフショア人民元市場への介入だ。5日のHIBOR(香港銀行間取引金利)は中国国有銀行による人民元供給がしぼられたために前日の16.9%から38.3%に急上昇。これに伴い元の対ドルレートも反騰した。元売りを続ける投機筋への牽制との見方が有力だ。

 第二に中国国民に対する牽制球だ。3日、外国為替管理局が発表した通達は一般国民による「ありの引っ越し式外貨流出」を狙い撃ちする内容となった。

 中国では外貨への交換はいまだに自由化されておらず、1人当たり年5万ドルまでという規定がある。通達は「不動産購入や金融商品購入を目的とした両替は認められていない。違反者はブラックリストに載せて以後の両替を禁止することもありうる」という内容。せっせとえさを運ぶありのように、ちまちまと個人で両替して資産防衛を図っていた一般国民の動きを封じようというわけだ。

 ちなみに5日夜に電子通貨ビットコインの価格が急落したが、これは人民元反騰の影響を受けたもの。中国では資産防衛策としてビットコインを買う動きが広がっていたが、人民元の反騰を受け、ビットコインを売って人民元を買い戻そうとする動きが広がった。

 現在、ビットコインの取引は90%が中国人によって占められているという。中国政府は貪欲に先端技術の取り込みを図っているため、ビットコインにはほとんど規制をかけていなかった。そのため手軽な外貨投資としてビットコインの人気が高まったというのだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国軍が東シナ海で実弾射撃訓練、空母も参加 台湾に

ビジネス

再送-EQT、日本の不動産部門責任者にKJRM幹部

ビジネス

独プラント・設備受注、2月は前年比+8% 予想外の

ビジネス

イオン、米国産と国産のブレンド米を販売へ 10日ご
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 8
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 9
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 10
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 7
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中