最新記事

脳研究

女性は妊娠で脳の構造を変え、「子育て力」を高める:神経科学の最新研究

2016年12月26日(月)14時08分
高森郁哉

pascalgenest- iStock

 女性の脳は妊娠により構造が変化し、乳児を育てる能力が高まるよう適応している可能性がある。そんな研究成果をまとめた論文を、研究拠点となったスペインのバルセロナ自治大学が発表し、英学術誌『ネイチャー』が掲載した(要約の日本語版「妊娠によって女性の脳の構造が変わる」)。

特定領域の灰白質が減少し、「母親らしい」脳に

 論文の筆頭筆者は、神経科学と細胞生物学を専門とするエルゼリン・ホエクゼマ博士。同博士はバルセロナ自治大でこの研究に取り組んだのち、現在はオランダのライデン大学に在籍している。

 ホエクゼマ博士らの研究チームは、妊娠、出産を初めて経験する25人の女性を対象に、妊娠前から出産後2年間にわたり、妊娠によって起こる脳の灰白質の構造変化を調査。これらの女性が、初めて父親になった男性19人、子供のいない男性17人、出産経験のない女性20人と比べて、社会的認知にかかわる脳領域の灰白質が少なくなっていることを確認した。出産後の女性に自分の赤ちゃんの写真を見せる実験では、ほかの乳児の写真を見せる場合と比べ、妊娠によって変化した脳領域の一部で神経活動が高くなったという。

【参考記事】「より多く女性を生かしておく」ように進化したウイルス。その理由は?

 研究チームは論文に、「妊娠による脳の構造変化は、母親への変化適応力をもたらすと考えられる」と記している。具体的には、自分の赤ちゃんが必要としていることを認識する能力や、周囲の刺激から潜在的な脅威の兆候を読み取る能力、母子の絆を強める力が高まると考えられるという。

「シナプス刈り込み」が起きている?

 ホエクゼマ博士らは、妊娠と出産で女性の脳の灰白質が減少するのは、「シナプス刈り込み」が起きているからではないかと推論している。シナプス刈り込みとは、不要な神経結合を取り除く新陳代謝により、神経ネットワークの効率を高める現象だ。シナプス刈り込みは一般に、青年期に起きる現象とされ、認知能力・感情・社会性の健全な発達に不可欠な脳回路の効率化と特殊化をもたらすと考えられている。

 なお、妊娠中に言語的な記憶を思い出す能力が低下する(物忘れがひどくなる)ことを示す従来の研究もあるが、バルセロナ自治大チームの調査では、妊娠中の女性の記憶能力に有意な変化は観察されなかったとしている。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

ロシアがICBM発射、ウクライナ発表 初の実戦使用

ワールド

国際刑事裁判所、イスラエル首相らに逮捕状 戦争犯罪

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部の民家空爆 犠牲者多数

ビジネス

米国は以前よりインフレに脆弱=リッチモンド連銀総裁
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 2
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 3
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 4
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 5
    「ワークライフバランス不要論」で炎上...若手起業家…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    習近平を側近がカメラから守った瞬間──英スターマー…
  • 8
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 9
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 10
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国」...写真を発見した孫が「衝撃を受けた」理由とは?
  • 4
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 5
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 6
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
  • 7
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 8
    建物に突き刺さり大爆発...「ロシア軍の自爆型ドロー…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    秋の夜長に...「紫金山・アトラス彗星」が8万年ぶり…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中