世界が放置したアサドの無差別殺戮、拷問、レイプ
シリアの民主化運動が、最初は平和的なデモだったことを忘れてはならない。数万人の住民が、社会的公正と政治改革、自由と民主主義を求めて行進したのだ。
それに対し、アサドは国家の治安機構ごと解き放った。平和的な抗議は危機に転じ、荒っぽい内戦になった。民主化活動家は逮捕され、拷問され、大量に殺害された。一方では、正真正銘のならず者たるイスラム過激派が国家刑務所から野に放たれ、アルカイダやISIS(自称イスラム国)に吸収されていった。アサド政権は自らを対テロ戦争の軍と位置付け、イスラム過激派やISISに代わる唯一の選択肢として味方を取り込んだ。
アレッポの病院で避難を待つ怪我人たち Abdalrhman Ismail-REUTERS
2011年、シリア内戦の発端となったのは、ダルア市出身のハムザ・アルハティーブという13歳の少年の死だった。ハムザは拘束され、警察の拷問を受け、弾丸3発で処刑された。切り刻まれた遺体の写真はネットで拡散され、ダルアからアレッポまで大規模な反政府デモが立ち上がった。だが、だが、無実の少年に対する残忍な拷問、切断、殺人という人道に対するこれ以上ない侮辱に対する人々の怒りに対しても、アサドは政府軍の容赦ない力をぶつけた。凄まじい暴力をもって自らの国民を5年以上、殺し続けたのだ。
アサドの攻撃は、彼に抵抗する最後の一人、あるいは最後のグループまで根絶やしにしない限り止まらないだろう。アサドはいくら殺しても、軍事作戦を止めようとしない。ロシア軍の助けでアレッポの住民を一人残らず始末しようとしている。
自分の首を絞める国際社会
アメリカの次期大統領がドナルド・トランプに決まったことも問題を一層複雑にする。アサドは今、ロシアがあらゆる国際法や慣例に反してアレッポ東部を焼き尽くすのを黙認している。旧ユーゴスラビアやルワンダの虐殺で行われた「人道に対する罪」に対する反省として、国連は1999年、「武力紛争下における文民保護」を決議した。それにも関らず、国際社会はその責任を積極的に無視したのである。ロシアが好きだと公言し人権もお構いなしのトランプの参入で、事態はどう変わるのだろう。
シリアの民主化運動を支持し育成することに失敗したのは悲劇だ。だがそれに続いた内戦を終わらせるために有効な手段を打たず、アサドに戦争のルールを守らせることさえできなかったのは、また大きな別次元の倫理観の崩壊を示している。
アサドの勝利によって、国際社会はいずれ自分の首を絞められることになるだろう。われわれの世代は昔を振り返り、なぜ人はナチスの台頭を許し得たのだろうと疑問に思う。その答えは、シリアにある。そして歴史の審判は、決して人類に優しくはないだろう。