最新記事

サイバー戦争

オバマが報復表明、米大統領選でトランプを有利にした露サイバー攻撃

2016年12月16日(金)19時00分
マイカー・ゼンコー

 いい例がトランプだ。「今年の人」に選んでくれたタイム誌とのインタビューでは、ロシアが「介入したとは思えない」と断言。ただし、サイバー攻撃についてはこう付け加えた。「ロシアかもしれないし、中国かもしれず、ニュージャージー州の誰かかもしれない」 その後トランプの政権移行チームは、「アメリカの選挙に外国が介入したとする主張について」という異例の声明を発表、その冒頭でCIAをあからさまに誹謗した。「彼らはサダム・フセインが大量破壊兵器を保有していると言った連中だ」

 その2日後、トランプはFOXニュース・サンデーに出演し、ロシアの介入について「バカげている。言い訳にすぎない。信じない」と否定。誰がサイバー攻撃をしたか、情報機関は「分かっていない」と断言した。「ロシアなのか、中国なのか。彼らには何にも分かっていない」 さらには「ハッキングというのは面白いもので、現行犯で捕まらなければ、後からは絶対に捕まらない」と、無知と不見識をさらけ出した。

米スパイコミュニティーに喧嘩を売ったトランプ

 トランプの言い分を要約するとこうなる。「ロシアは選挙に介入しなかったし、介入するならロシアに限らずどの国でもできたはず。情報機関は実態を把握していないだけ。今更サイバー攻撃を調査するのは不可能で、後の祭りだ」。つまりトランプに言わせると、たとえ米政府の手にかかっても、ロシア政府の関与を断定することはできない。情報機関の分析とは正反対の結論を、トランプ自身はすでに出しているわけだ。

【参考記事】常軌を逸したトランプ「ロシアハッキング」発言の背景

 コメンテーターは一斉に、ロシアの関与の可能性に疑義を唱えている。彼らの反論は大きく分けて2つある。1つは、アメリカの情報機関の分析には信用できないという主張だ。根拠に挙げるのは、02年10月に国家情報評価(NIE)が根も葉もない情報に基づいて導き出したとされる報告「イラクは大量破壊兵器を開発している」の大失態だ。

 悪名高い02年版のこの文書は、完成までにいくつものミスが重なった。上院情報特別委員会の調査によると、通常なら編纂に3カ月間は確保したいところを、当時の情報機関は問題の文書をたった20日間で承認までこぎつけた。CIAは事後報告書で「NIEは3つの異なる草稿チームの分業で出来上がり、雑多な分析結果を取り入れながら、それぞれが独立したセクションを受け持っていた」と指摘した。大量破壊兵器に関するアメリカ諜報機能委員会はこれを「NIEの主要な欠陥」だと批判した。「サダム・フセインの過去の言動を盾に人目を引く仮説を並べ立て、自分たちの主張を正しいと見せかけたが、実際には何の価値もないような情報を垂れ流した。そのせいで誤った判断に導いた可能性もある」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ソフトバンクG、オープンAIに追加出資 最大5.9

ワールド

ブラジル前大統領、ルペン氏公職追放を「左派的司法活

ワールド

中国軍、台湾周辺で陸海軍・ロケット部隊の合同演習

ビジネス

テスラ第1四半期納車台数は前年比マイナスか、競争激
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 8
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 9
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中