最新記事

サイバー戦争

オバマが報復表明、米大統領選でトランプを有利にした露サイバー攻撃

2016年12月16日(金)19時00分
マイカー・ゼンコー

Larry Downing-REUTERS

<やはりプーチンはトランプを勝たせようとしていたのか? ロシアからの米大統領選に対するサイバー攻撃と選挙操作を目的とした介入について、米情報機関はほぼ確実にあった、としている。昨日にはオバマが、それはプーチンの指示だった可能性もあるとした上で、報復を訴えた。トランプはロシアの関与について、頭から「ばかげている」と全面否定。逆に情報機関の無能ぶりをあげつらって全面戦争を挑んでいる> (写真はCIA本部。過去に失敗があったからといって、ロシアが米大統領選に介入したという米情報機関の声を無視していいのか)

 前代未聞だ。

 バラク・オバマ米大統領は2016年の選挙プロセスにロシアが介入した疑いについて「全面的に再調査」し、退任前に報告するようかねてから情報機関に命じていた。つまり、トランプ勝利の正当性に疑問符が付いたということだ。それに対してドナルド・トランプ次期大統領側は、ロシアの介入に関する情報機関の報告を頭から否定し、情報機関の能力にまで難癖を付けている。米情報機関に公然と喧嘩を売っていることになる。

 こうした対立は悲劇を招きかねない。ホワイトハウスが情報機関の分析を信用せず、無視すれば、対外的な危機に十分に備えられないことは歴史が証明している。

 まずは対立の経緯を見ておこう。国土安全保障省と国家情報長官室は10月7日、合同声明を発表し、次のように断定した。

「最近発生したアメリカの個人と政治団体を含む組織のメールアカウントへの不正アクセスとメールの公開はロシア政府の指示によるものだと、我々は確信する......これらの盗みと公開はアメリカの選挙プロセスに干渉する目的で行われた......その規模と機密性の高さから、ロシアの官僚機構の最上層部がこれらの活動を命じたと見てほぼ間違いないと、我々は確信している」

 その後の分析もロシアの関与を裏付けている。ワシントン・ポストは10日、情報筋の話として、CIAが提出した「部外秘アセスメント」の内容を伝えた。CIAはこのアセスメントで、「ロシアはただ単にアメリカの選挙制度の信頼性を損なうためではなく、ドナルド・トランプを当選させるために2016年の選挙に介入した」と結論付けている。「これは(CIAだけでなく)情報機関全体の分析だ。ロシアの目的は特定の候補者に肩入れすること、トランプの当選を助けることだった。これは一致した見解だ」と、米政府高官は語っている。

ロシア政府犯行説ほぼ確実

 ニューヨーク・タイムズも「情報機関」が「高い確度」で結論付けた事柄として、「ロシアは大統領選の後半戦でヒラリー・クリントンの足を引っ張り、ドナルド・トランプにテコ入れするために密かに工作を行った」と伝えた。ロシアに指示されたハッカー集団は共和党全国委員会のサーバーにも侵入したが、そこから盗んだ情報は公開されなかったという。ロシア軍参謀本部情報局(GRU)のスタッフが「ハッキング活動を監督した」と見られている。

【参考記事】トランプが煽った米ロ・サイバー戦争の行方
【参考記事】トランプはプーチンの操り人形?

 情報機関の用語では、「高い確度」はほぼ80~95%の確率を意味する。情報機関の分析では100%または0%の断定は許されない。諜報活動の性質上、常に断定を避けた報告を行うため、白か黒かをはっきりさせたい政治家はいら立つし、曖昧さにつけ込んで疑惑をもみ消す政治家もいる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ミャンマー地震の死者1000人超に、タイの崩壊ビル

ビジネス

中国・EUの通商トップが会談、公平な競争条件を協議

ワールド

焦点:大混乱に陥る米国の漁業、トランプ政権が割当量

ワールド

トランプ氏、相互関税巡り交渉用意 医薬品への関税も
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...スポーツ好きの48歳カメラマンが体験した尿酸値との格闘
  • 3
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 4
    最古の記録が大幅更新? アルファベットの起源に驚…
  • 5
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 6
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 7
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 8
    「炊き出し」現場ルポ 集まったのはホームレス、生…
  • 9
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 10
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 5
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 6
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
  • 7
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 5
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 6
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 7
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中