最新記事

イラク

警官の集団墓地、石打ち、化学兵器──ISIS最大拠点モスルの惨状

2016年12月1日(木)18時47分
ダイアナ・エルタハウィ

 アムネスティはイラク軍や民兵組織が主体のPMU(人民武装軍団)やスンニ派の部族勢力に所属するTM(部族動員軍団)などが、避難してきた住民をISISと共謀したとみなして攻撃していると報告する。

 モスル郊外に位置するマハラビアやバルタラの村民たちは、PMUに所属するとみられる兵士らによって、殴打したり侮辱行為を受けた。

 3人の子どもを抱え11月4日に村を脱出した父親は、避難先で15~45歳の少年や成人男性だけ隔離された後、兵士らによる脅しや辱めに遭ったと語った。「PMUは俺たちを裸にし、ダーイシュ(ISISの別名)と罵声を浴びせ、歩きながら犬やロバの鳴きまねをさせられた」

 彼らはこの父親に対して殺すと脅迫し、一人の兵士は目の前でおのを振りかざした。「スペイチャーで起きた大量虐殺の報復」だと言ったという。ISISは2014年6月、ティクリート近郊のスペイチャーでシーア派民兵の士官1700人余りを処刑した。

報復の連鎖

 モスル南部の町や村の住民たちはアムネスティの取材に対し、TMの兵士は住民がISISを支持したとして非難し、略奪や破壊行為に及んだうえ、住民を恣意的に拘禁し拷問や劣悪な扱いを繰り返した。

 そうした民兵の一部はアムネスティの調査団に対し、「ダイーシュ」の家を爆破し、罰してやったと誇らしげに語った。

 イラク政府がそうした民兵組織を直ちに特定し、残虐行為に及ぶ疑いのある兵士を任務から外さない限り、待っているのは報復の連鎖という危険な現実だ。

 ISISの犯罪に苦しんできた数えきれない被害者は、加害者に法の裁きを受けさせ、賠償させるべきだ。だが自警団のような民兵組織が「正義」を振りかざして報復行為を行えば、被害者がまた被害を受けかねない。それどころかモスル陥落後も、暴力と不法行為の連鎖が長引く危険性がある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

スウェーデン、バルト海の通信ケーブル破壊の疑いで捜

ワールド

トランプ減税抜きの予算決議案、米上院が未明に可決

ビジネス

ユーロ圏総合PMI、2月50.2で変わらず 需要低

ビジネス

英企業、人件費増にらみ雇用削減加速 輸出受注1年ぶ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 9
    ハマス奇襲以来でイスラエルの最も悲痛な日── 拉致さ…
  • 10
    ロシアは既に窮地にある...西側がなぜか「見て見ぬふ…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 8
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 9
    週に75分の「早歩き」で寿命は2年延びる...スーパー…
  • 10
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 5
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 6
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 7
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中