ビル・ゲイツの鼻をクンクンさせた驚異の「消臭力」とは?
トイレを作っても使われないという現実
だがトイレがあれば全てが解決されるわけではないようだ。ゲイツによれば、インドなど世界中でトイレの建設計画が進行中だが、途上国に設置されたトイレ、特にくみ取り式のトイレは、すぐに使われなくなってしまうという。トイレ内はすぐに強烈な匂いが立ちこめるようになり、それまでオープンエアーで用を足していた人びとにとっては、トイレ=不快、野外での排泄=快適となって、利用されなくなってしまうからだ。
そこでゲイツが目をつけた、いや鼻を効かせたのが、スイスに本社をもつ香料メーカーのフィルメニッヒだった。創業120年のこの会社は、世界で最も有名な香水の一部を作ったり、飲料や食品の風味を高めるための香料を作っている。ビル・ゲイツ財団の支援の下、フィルメニッヒはトイレの匂いをひどくさせている犯人──インドール、p-クレゾール、ジメチルトリスルフィド、酪酸をつきとめた。それをもとに彼らは便や古くなった尿のような匂いを化学的に合成することに成功した。つまり「うんこ香水」である。
この人工「うんこ香水」をもとにフィルメニッヒの研究者達は、ちょうどヘッドフォンのノイズキャンセリングの仕組みと同じように、悪臭に敏感な嗅覚受容体をブロックするような成分を香りに混ぜ、人間がかいでも臭いと思わなくすることに成功したのだ。フィルメニッヒは、この技術を製品にする際に、粉末にするべきかスプレーにするべきかなどを、インドやアフリカ地域で試験していく予定だという。
ゲイツはブログの最後を次の言葉で締めくくっている。
「スイスの出来事は私の鼻にとって忙しい1日だったが、一つの香りがいまだに続いている。それは、世界をより良い場所にするために、人びとが才能を寄せあって成し遂げた"成功の香り"だ」