最新記事

ライフスタイル

エリート主義から自転車を取り戻すために。「ジャスト・ライド」

2016年11月11日(金)15時50分
川崎和哉(geared)

<山登りにおけるウルトラライト・ハイキングのムーブメントのように、自転車に乗るときの気楽で自由で解放された気持ちを取り戻そう、というメッセージを『ジャスト・ライド』から読み取る>

自転車にまつわる神話を大胆に否定する

 東京の街にピストバイクが溢れていた頃(2000年代後半ですね)、僕は米国のとあるサイクリストのブログと、そこからリンクされていた米国の2つのサイクルストアの商品ラインナップに、ちょっとしたカルチャーショックを受けていました。

 そこで出会ったのは、それまで自分が見聞きしたり齧ったりしていた日本のバイクカルチャーのいずれともちょっと毛色の違った文化でした。彼らが乗るバイクは、ロードレーサーではないしピストでもないしマウンテンでもありません。いい按配のクロモリフレームで、ハンドルバーはドロップだけどカゴを付けていたり、リアキャリアとパニアバッグを付けていたり、センタースタンドを付けていたりします。こんなシーンがあったのか。自転車と毎日の生活がしっかりと結びついていて、でも実用的なだけでなく自転車に美意識が感じられる。。

 前述の「ブログ」とは、2011年に残念ながら閉じてしまった eco veloであり、「2つのサイクルストア」とは、ひとつが Velo Orange で、もうひとつが本稿の主題である Rivendell Bycycle Works(リーベンデールバイシクルワークス )でした。

Lugged12.jpg

Rivendell Bycycle Works オフィシャルサイト

 リーベンデールには、当時日本では時代遅れと見なされていた、または逆にレトロ文脈で愛好されていたような、バイクパーツやアクセサリーがリアルな現在進行形の自転車のためにセレクトされ、売られていました。

 感化された僕は当時、わざわざサンフランシスコ近郊のリーベンデールから、日本の老舗パーツメーカー日東のノースロードバーを取り寄せたりしていました(日本で流通していたものと仕様が違って、バーエンドシフターが入れられたのです)。

 さて、紹介したいのはそのリーベンデールのオーナーであるグラント・ピーターセンによる著書『JUST RIDE』の翻訳本です。まさか邦訳が出るなんて思ってもみなかったので、本屋さんで偶然出会ったときにはびっくりしました。

justride2.jpg

 著者グラント氏は序文の冒頭で次のように宣言しています。


「この本で僕が主に目指すのは、バイクレースがバイクや装備、心構えなどにもたらす悪しき影響を指摘し、それを改めることだ」。

 この本を気にいる人は、ここを読んだだけで、ページをめくるのが楽しみになるのではないでしょうか。レーサーでもないのに、レーサーみたいな装備と技法で乗らないといけないような風潮が、自転車の本来の楽しさや便利さを台無しにしてしまっているんだ、とグラント氏は考えているようです。

 この本は趣味として自転車に乗る人ための入門書として書かれていますが、その伝授の過程で彼は「アンレーサー」という造語(?)を持ち出して、プロレーサーを神とする現在のスポーツサイクリングのヒエラルキーへの抵抗を試みます。そしてときに、一般に信じられている自転車にまつわる神話を大胆に否定してみせるのです。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イラン、イスラエルへの報復ないと示唆 戦火の拡大回

ワールド

「イスラエルとの関連証明されず」とイラン外相、19

ワールド

米石油・ガス掘削リグ稼働数、5週間ぶりに増加=ベー

ビジネス

日銀の利上げ、慎重に進めるべき=IMF日本担当
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 2

    ダイヤモンドバックスの試合中、自席の前を横切る子供を「蹴った」年配女性の動画が大炎上 「信じ難いほど傲慢」

  • 3

    あまりの激しさで上半身があらわになる女性も...スーパーで買い物客7人が「大乱闘」を繰り広げる動画が話題に

  • 4

    ネット時代の子供の間で広がっている「ポップコーン…

  • 5

    便利なキャッシュレス社会で、忘れられていること

  • 6

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 7

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 8

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 9

    毎日どこで何してる? 首輪のカメラが記録した猫目…

  • 10

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 5

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 6

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 9

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離…

  • 10

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中