ドゥテルテ麻薬戦争で常用者を待つ悲劇
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<フィリピン・ドゥテルテ大統領が宣言した麻薬戦争で、殺害を恐れて60万人以上が自首したが、受け入れ態勢はお粗末で自警団に狙われる羽目に>(写真:レイテ島タナウアン市では、警察に出頭した1000人が警察の更生プログラムを受講した)
就任後半年以内に麻薬密売組織を撲滅する。そのためなら何万人でも犯罪者を殺す――そんな過激な公約を掲げて選挙に勝ったフィリピンのロドリゴ・ドゥテルテ大統領。公約どおり、就任後すぐさま麻薬戦争を開始した。最初の3カ月に少なくとも3400人が警察か自警団に殺害されたとみられ、国際社会は「超法規的な処刑」に厳しい批判を浴びせている。
国家警察は戦果を誇るかのように死者数を公表しているが、その一方で麻薬戦争は思いがけない「副作用」を生み出した。
就任後最初の週にドゥテルテは麻薬常用者に自首を呼び掛けた。これに応じて警察や政府機関に出頭した人の数は60万人を超え、当局は対応に大わらわだ。
【参考記事】ドゥテルテ大統領、虚偽の数字でフィリピン「麻薬戦争」先導か
薬物依存の公的な治療施設はフィリピン全土に14カ所しかなく、民間の治療施設もごくわずかで、大半の施設は麻薬戦争の開始前から定員に達していた。そのため各地の当局者は苦肉の策を講じている。覚醒剤メタンフェタミンの常用者を強制的にジムに行かせ、激しい運動をさせるといった素人療法だ。
マニラ首都圏パサイ市の197地区でも、地区当局は出頭した麻薬常用者への対応を迫られた。当局が打ち出した解決策は「汗水垂らして働けば薬物を断てるだろう」というもの。「自首した人たちを地区の大衆食堂で就労させる事業を進めている」と、地区議員のジャイメ・アバソラは言う。
政府に更生の資金はない
だが、薬物依存は労働で断ち切れるほど単純ではない。アバソラもそれは分かっているが、政府が提供する資金はゼロ。出頭者への対応マニュアルすら作成されていない。