南シナ海と引き換えに中国に急接近するマレーシア・ナジブ首相
ナジブ首相が率いる与党「統一マレー国民組織(UMNO)」は11月29日に党大会開催を控えており、ナジブ首相は今回の訪中成果を強調して党内結束と政権基盤の安定を図りたいところだ。そして党内安定を2018年の総選挙につなげることで政権批判をかわす狙いであることは明白だ。
野党は打倒ナジブの国民運動展開へ
こうしたナジブ首相の最近の動きに対し野党第一党の民主行動党を筆頭に野党勢力が一斉にナジブ政権批判を強め、反政府運動を国民運動へと盛り上げようとしている。
加えて与党UMNOを脱退して新党を結成、「打倒ナジブ」を公然と掲げるマハティール元首相がかつての仇敵、アンワル元副首相ら他の野党勢力と提携し、在野勢力も巻き込んだ形で大同団結して、街頭デモや大規模集会などを模索する動きも急となっている。
【参考記事】18年の怨念を超えて握手 マハティールと仇敵が目指す政権打倒
「反ナジブ」を掲げる勢力は急激な中国接近による経済支援獲得を「経済支援のために独自外交を(中国に)売った」と批判している。それに加えて1MDB不正資金疑惑、ロスマ首相夫人の資金疑惑、治安維持で首相に強大な特権を付与する「国家安全保障会議(NSC)法」の制定、そして総選挙に向けて政権与党が有利になるように選挙区の区割りを変更する「ゲリマンダー」への着手などの内政問題でもナジブ政権追及を強めようとしている。こうしたナジブ政権の外交、内政に反発する動きの加速化は、今後マレーシア政局が一挙に流動化させる可能性が強い。
[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など