最新記事

米軍事

ISISのプロパガンダと外国戦闘員が急減、軍事作戦効果

2016年11月2日(水)17時45分
ヘレ・デール(ヘリテージ財団上級研究員〔広報外交〕)

Goran Tomasevic-REUTERS

<イラクとシリアで対ISIS軍事作戦が続くが、その副産物として、ISISのプロパガンダ量が70~80%も下落。インターネットを使った新兵勧誘でも大きな打撃をいつの間にか与えている> (写真は10月27日、モスル南方でイラク軍に拘束されたISIS戦闘員とみられる男たち)

 思わぬ副産物が、イラクとシリアで続くISIS(自称イスラム国、別名ISIL)支配地域への軍事作戦から生まれている。ISISが得意としてきたSNSによるプロパガンダの量が70~80%も落ちているのだ。

 ISISは10月半ば、シリア北部の村ダビクを明け渡した。ダビクは預言者ムハンマドの言行録「ハディース」の中で異教徒との最終決戦の地と位置づけられた村。ISISが思想の上で重視してきた拠点だが、大した抵抗もなく敗退した。

 一方、ISISのイラク最大の拠点である北部の大都市モスルでは、クルド、イラク、アメリカの軍が包囲網を狭めてきており、1日には、市内への進軍を開始したとイラク軍が発表している。

 米陸軍士官学校テロ戦闘センターの新たな報告書「コミュニケーション分析――ISISのメディア活用解明」は、軍事作戦がいかにISISのイデオロギー戦争遂行能力に打撃を与えているかを詳細に記述している。ISISはカリフ国(ムハンマドの正統な後継者が統治する国)の到来を約束し、ISISを現実世界の理想郷と描いてきたが、もはや不可能になったも同然だ。

宣伝のインフラも崩壊

 それだけでなく、撮影スタジオにコンピューター、ISISのインターネット運営用のビルなど、物的なインフラも度重なる爆撃により破壊された。8月末にプロパガンダを指揮していた幹部、アブ・ムハンマド・アル・アドナニ報道官が死亡したことも、ISISの新兵勧誘に影響を与えている。

 空爆などの対ISIS攻撃が激しさを増していったこの1年で、国外からシリアとイラクに流入する外国人戦闘員の数は月に約1500人から200人へと減少。最盛期の2015年8月には1カ月で700本もの記事を掲載していた公式メディアも、今年8月には200本以下へと縮小している。

 SNSを使ったISISのプロパガンダが衰退していることは、米国務省も当然ながら気が付いている。国務省はSNSプロパガンダへの対抗作戦を主導してきた。

 リチャード・ステンゲル国務次官(広報・文化交流担当)は今週、ISISのプロパガンダと新兵勧誘が減少しているのは同省の広報外交の成果だと誇ったが、何らその証拠を示していない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

再送-AIが投資家の反応加速、政策伝達への影響不明

ビジネス

米2月総合PMI、1年5カ月ぶり低水準 トランプ政

ワールド

ロシア、ウクライナ復興に凍結資産活用で合意も 和平

ワールド

不法移民3.8万人強制送還、トランプ氏就任から1カ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中