最新記事

アジア

中比首脳会談――フィリピン、漁夫の利か?

2016年10月21日(金)19時00分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

 また、習近平国家主席は20日、ドゥテルテ大統領との会談を終えると、同じ人民大会堂の客間で、ベトナム共産党中央政治局委員で中央書記処常務書記(丁世兄)と会談した。

 ラオスもカンボジアもフィリピンも、そしてベトナムさえもとなれば、ASEAN諸国はすでに中国の傘下に降ったようなもので、南シナ海問題だけでなく、東アジア情勢に大きな地殻変動が起きる。

安倍外交に期待

 今や、何かできるとすれば、日本しかない。

 アメリカがフィリピンを植民地化したのは1898年で、1941年12月8日のパールハーバー急襲をきっかけとした第二次世界大戦に突入した日本は、アメリカ軍を放逐しフィリピンのマニラ市に上陸した。1942年にフィリピン全土を占領すると、1943年に日本は傀儡政権ながらもフィリピンを独立させている。1945年の日本の敗戦に伴い、フィリピンはアメリカの植民地に戻った。

 そんな歴史を持っているフィリピンは、アメリカと日本を比べるならば親日的だ。

 今年9月7日、安倍総理はラオスのビエンチャンでドゥテルテ大統領と会談し、日本がフィリピンに対し海上自衛隊の練習機を最大5機ほど有償貸与することや、大型巡視船2隻を円借款で供与することで合意した。フィリピンの海上警備能力を向上させ、海洋進出を進める中国を牽制する狙いがあった。

 これに対して、10月12日、日本政府が円借款により10隻供与することになっている沿岸警備隊巡視船の一番艦の就役式に出席したドゥテルテ大統領は、「日本はフィリピンへの最大の貢献者であり、日本の人々に感謝する」と述べている。

 アメリカを罵倒し、ついには"Good-bye my friend"という言葉でアメリカと縁を切る姿勢を見せながら、日米同盟がある日本に対しては、実は好意的なのだ。

 10月25日から訪日するドゥテルテ大統領に対する安倍外交に期待するしかない。

endo-progile.jpg[執筆者]遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会科学研究所客員研究員・教授などを歴任。『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』『チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男』『完全解読 中国外交戦略の狙い』『中国人が選んだワースト中国人番付 やはり紅い中国は腐敗で滅ぶ』『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』など著書多数。近著に『毛沢東 日本軍と共謀した男』(新潮新書)


※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

この筆者の記事一覧はこちら

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

マグニフィセント7決算発表開始、テスラなど=今週の

ワールド

イスラエル首相「勝利まで戦う」、ハマスへの圧力強化

ワールド

対米関税交渉、日本が世界のモデルに 適切な時期に訪

ワールド

米イラン、核合意への枠組みづくり着手で合意 協議「
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプショック
特集:トランプショック
2025年4月22日号(4/15発売)

大規模関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 2
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪肝に対する見方を変えてしまう新習慣とは
  • 3
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず出版すべき本である
  • 4
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 5
    トランプが「核保有国」北朝鮮に超音速爆撃機B1Bを展…
  • 6
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 7
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はど…
  • 8
    「2つの顔」を持つ白色矮星を新たに発見!磁場が作る…
  • 9
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 10
    ロシア軍高官の車を、ウクライナ自爆ドローンが急襲.…
  • 1
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 3
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 4
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 5
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇…
  • 6
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気では…
  • 7
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトラ…
  • 8
    動揺を見せない習近平...貿易戦争の準備ができている…
  • 9
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 10
    「世界で最も嫌われている国」ランキングを発表...日…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 3
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 4
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 6
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 7
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 8
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
  • 9
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 10
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中