最新記事

中国政治

習近平と李克強の権力闘争はあるのか?――論点はマクロ経済戦略

2016年10月18日(火)17時54分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

中国共産党創設95周年祝賀大会での習(左)と李 Kim Kyung-Hoon-REUTERS

 習近平と李克強の間の権力闘争が激しいという報道が目立つ。江沢民に買収された香港メディアに惑わされている。中国の実態を見極めない限り、日本の正確な対中政策は出て来ない。そのまちがいと論点を考察する。

中国政治構造の基本を知らない誤分析

 中国政治の基本は「党と政府」あるいは「中共中央と国務院」という「ペア」で動いていることだ。党(中共中央)で会議を開催して議論する議題は、同じ時期に政府(国務院)でも同じように会議を開くか、あるいは「座談会」を開催するかなどして議論する。いうまでもなく、「同じ議題に関して」だ。

 これが第一の基本で、次に「イロハ」として頭に入れておかなければならないのは、中国は「一党支配体制の国家」であり、全ては「党」が先に決定して、政府(国務院)は、その決定に従う「執行機関」に過ぎないということである。

 この「党の決定」には、いくつかのレベルがあり、年に一回開かれる第○次中共中央委員会全体会議(三中全会とか五中全会とか呼ばれている会議)と中共中央政治局会議および中共中央政治局常務委員会会議などがある。

 李克強国務院総理が、どんなに政府側のトップであっても、必ずその前に「党の決定」がなければならず、その決定を執行する、いわば事務方の業務が、中国で言うところの「政府(国務院)」なのである。

 それでも「政府」を前面に出しているのは、人民に対しても、また国際社会に対しても、「一党独裁」ではなく、「ちゃんと全人代(全国人民代表大会)を通して合法的に国家を運営していますよ」という見せかけの虚構を構築するためだ。

 この基本を忘れてはならない。

 この基本を知らない間違った分析には、たとえば以下のようなものがある。

1.2016年3月の政府活動報告

「習近平の目を通しておらず、李克強の一存で書き、習近平に対抗しようとしている」といった趣旨の分析があるが、政府活動報告と第13次五カ年計画の内容は、2015年11月に開催された「五中全会」で討議し決定している。全人代における李克強の報告は、あくまでも五中全会の決定を文書化した「事務的作業」に過ぎない。

2.地方視察に関して

「2016年4月24日に李克強が四川省を視察しているのに、同日に習近平が安徽省を視察したのは異例で、北京に党内のナンバー1とナンバー2がいないのは、対抗心以外のなにものでもない。きっと相手の日程をこっそり調べて、わざとぶつけているにちがいない」といった趣旨の分析がある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 8
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 9
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 10
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中