最新記事

シリア内戦

アレッポに蘇るチェチェンの悲劇

2016年10月14日(金)11時00分
マーク・ガレオッティ(ニューヨーク大学教授)

 否定できないことは「みんながやっている」と一般化するか、怒りの反論で話をそらすのがロシアのやり方だ。チェチェンでは、反ロシア政権におけるイスラム教徒の影響力が次第に強くなっていった。そこでロシアはあの紛争を、イスラム原理主義勢力タリバンやテロ組織アルカイダに対する世界的な戦いの一部と位置付けた。ロシアに疑義を唱える者がいれば、テロリストをかばうのかと糾弾した。

 同様に、アレッポについてアメリカから非難されたロシアは、米軍主導の有志連合がシリア兵を誤爆したことから非難をそらすための策略だろうと反論した。

 重要なのは、欧米は冷めやすくて簡単に気をそらせられる連中だからこの作戦が効いている、とロシアが信じ込んでいる点だ。欧米が価値観や人権を主張するのは、あくまで自己正当化や偽善にすぎないと、ロシアは本気で考えているらしい。

【参考記事】シリア停戦崩壊、米ロ関係かつてない緊張へ

 だから彼らは、テロ組織の崩壊など望ましい結果につながるなら、欧米はロシアの残忍さを受け入れるだろうと考えている。

 欧米の怒りは長続きしないとも思っている。チェチェン紛争は一時は注目を集めたが、すぐに忘れられた。08年のジョージア(グルジア)侵攻から1年もたたない09年1月には、新任のバラク・オバマ米大統領が米ロ関係の「リセット」を提案した。

 見掛けの戦術は似ているが、プーチンがシリア内戦をチェチェン紛争の再来と信じている節はない。しかし、プーチンがチェチェンにおける血みどろの勝利から教訓を得ているとしたら、それは「残忍な戦争で勝利するには、残忍な手を使うのが一番いい」ということ。まさにそれが、シリアの悲劇だ。

From Foreign Policy Magazine

[2016年10月18日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 8
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 9
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 10
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中