アレッポに蘇るチェチェンの悲劇
否定できないことは「みんながやっている」と一般化するか、怒りの反論で話をそらすのがロシアのやり方だ。チェチェンでは、反ロシア政権におけるイスラム教徒の影響力が次第に強くなっていった。そこでロシアはあの紛争を、イスラム原理主義勢力タリバンやテロ組織アルカイダに対する世界的な戦いの一部と位置付けた。ロシアに疑義を唱える者がいれば、テロリストをかばうのかと糾弾した。
同様に、アレッポについてアメリカから非難されたロシアは、米軍主導の有志連合がシリア兵を誤爆したことから非難をそらすための策略だろうと反論した。
重要なのは、欧米は冷めやすくて簡単に気をそらせられる連中だからこの作戦が効いている、とロシアが信じ込んでいる点だ。欧米が価値観や人権を主張するのは、あくまで自己正当化や偽善にすぎないと、ロシアは本気で考えているらしい。
【参考記事】シリア停戦崩壊、米ロ関係かつてない緊張へ
だから彼らは、テロ組織の崩壊など望ましい結果につながるなら、欧米はロシアの残忍さを受け入れるだろうと考えている。
欧米の怒りは長続きしないとも思っている。チェチェン紛争は一時は注目を集めたが、すぐに忘れられた。08年のジョージア(グルジア)侵攻から1年もたたない09年1月には、新任のバラク・オバマ米大統領が米ロ関係の「リセット」を提案した。
見掛けの戦術は似ているが、プーチンがシリア内戦をチェチェン紛争の再来と信じている節はない。しかし、プーチンがチェチェンにおける血みどろの勝利から教訓を得ているとしたら、それは「残忍な戦争で勝利するには、残忍な手を使うのが一番いい」ということ。まさにそれが、シリアの悲劇だ。
[2016年10月18日号掲載]