「オクトーバー・サプライズ」が大統領選の情勢を一気に変える
それは、2005年の非公開録画テープだった。
トランプがソープオペラ(アメリカ版昼メロ)にゲスト出演するのを、NBCの芸能ゴシップ番組「アクセスハリウッド」がレポートしたときのものだ。トランプは当時「アプレンティス」という人気番組のスターで、3番目で現在の妻のメラニアと結婚したばかりだった。
トランプと「アクセスハリウッド」の司会者ビリー・ブッシュ(43代ブッシュ大統領のいとこ)は、マイクがONになって録音されていたことを知らなかったのか、バスの中で露骨な雑談を交わしている。映像はバスの外のもので、2人の姿は見えない。
そこでトランプはこんな発言をした――「美人を見ると自動的に魅了されちゃうんだ。すぐキスしてしまう。磁石みたいなもんだね。キスだけだけど。待ったりはしない。スターだと何でもやらせてくれるんだよ。何をやってもかまわない......P・・・Y(女性器の通称)をつかむんだ。何でもできる」
これは相手の同意を得ずに性的行為を行うことを示唆しており、実際に行動に移せば犯罪とみなされるセクシャルハラスメントにあたる。
これをスクープしたのは、由緒あるワシントン・ポスト紙だ。
【参考記事】非難合戦となった大統領選、共和党キーマンのペンスの役割とは
最初は「(ゴシップ紙として有名な)ナショナル・エンクワイアラーじゃあるまいし、ワシントン・ポストが扱うべき記事じゃない」という反応もあったが、その影響は当初予想していた以上に広がった。
女性だけでなく、これまでは我慢していた宗教保守派の男性共和党員からも、大きな反発が出てきたのだ。
上院議員のマイク・リー(ユタ州)は、ビデオで「私には妻、娘、姉妹、母がいる。彼女たちに対して、あのような発言をする者は絶対に雇用しない。関係を持ちたいとも思わない。自由世界のリーダーとして安心して雇えるとはまったく思わない」と批判し、トランプに対して「失礼ながら、(党の指名候補を)辞任していただきたい。敬意を持って要請します」と訴えた。リー以外にも、マイク・クレイポやケリー・アヨットなど、トランプ支持を取り消す共和党議員が続いている。
ワシントン・ポスト紙のスクープの直後に、ウィキリークスはヒラリー陣営の電子メールをリークした。トランプ支持者や、アンチ・ヒラリーの人々が「オクトーバー・サプライズ」として待ち受けていたものだ。中にはゴールドマン・サックスで行ったスピーチの内容や、ベンガジ事件の公聴会についての話し合いなどがある。