非難合戦となった大統領選、共和党キーマンのペンスの役割とは
それは、副大統領候補のマイク・ペンス知事(インディアナ州)との齟齬という問題だ。これは予想外に顕著な形で出てきた。それも大変に重要なシリアの「アレッポ情勢」に関する部分で、だ。ペンスは、先週の副大統領候補討論の中で、「住民が虐殺されて人道危機が起きている」ので「アサド軍の地上施設破壊」などを視野に「米軍としては軍事的介入も辞さず」ということを語っている。
このペンス発言を支持するかという質問に対して、トランプは「ノー」と答えた。つまりアサドは「ISISを攻撃しているから善玉」だとして、アサドとそのスポンサーのロシアをあくまで擁護し続けたのだ。これは大変な「ズレ」だ。アメリカの大統領選で「大統領候補と副大統領候補の間で重要な政策に関して相違がある」というのは少なくとも、20世紀以降では前代未聞だろう。
一体何が起こっているのか?
可能性としてあるのは、背後でペンスを中心とした「何か」が動いているという見方だ。一部の報道によれば、ペンスと夫人は一連のトランプの「女性蔑視発言」あるいは「性的な不規則発言」に対してカンカンに怒っていると言われている。何しろ厳格な宗教保守派で鳴らし、「トランプ候補は3回結婚しているが、私は30年同じ妻と連れ添っている」というペンスには、絶対に許せない種類の発言だろう。
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一部の報道には、8日の時点でペンスがトランプとの選挙運動をキャンセルするという話もあった。これに加えて、軍事外交において喫緊の課題であるシリア戦略に関して、事もあろうにアレッポでの民間人殺戮を繰り広げている「アサド政権=ロシア連合」をトランプは支持するという。
しかし第2回テレビ討論の直後にペンスは、「トランプ候補の健闘を称える」ツイートを出した。そして一夜明けた10日になってCNNのインタビューに応じたペンスは、「候補辞退など滅相もない」として戦線離脱を否定している。要するに、自分や支持者の個人的な不快感を「封印」して、当面はトランプ支持で進めるというのだ。
ここで浮かび上がってきたのは、3つのシナリオだ。
1つは、このままトランプが「降りもしない」し「浮上することもなく」ヒラリーが勝つ、一方で共和党の議員たちは「分裂選挙」を戦うというシナリオ。ペンスは「選挙戦の体裁を維持する」ために副大統領候補として運動を続ける一方で、トランプとの差を埋めることもしない、ある意味で大統領と議会の分裂選挙における「体裁を整えるバッファー」として機能するということだ。