習近平と李克強の権力闘争はあるのか?Part 2――共青団との闘いの巻
抗日戦争に関する軍事パレードなので、中共中央軍事委員会の主席や副主席が指揮すべきで、本来なら軍事委員会副主席が司会をしても良かった。しかし、「軍」が突出し、「国家の軍隊」ではなく「党の軍隊」しか認めていない現状に対する国内の反発を恐れて、政府側の「国務院総理(首相)」に司会を依頼することがチャイナ・セブンの会議(中共中央政治局常務委員会会議)および中央軍事委員会会議で決定したとのことである。
これは李克強を重視した決定であって、「首相が司会役に成り下がったのは、習近平への権力集中を象徴する」などということとは真逆だ。
このように、中国という国の骨幹を知らない人たちが、江沢民が一部のメディアを買収して扇動している「権力闘争説」に騙されて、中国の現象を全て、その「色眼鏡」を通して見ていることの恐ろしさを痛感した。
これでは中国の正確な分析はできない。
なお、共青団の第一書記が中国共産党中央委員会総書記になるという現象は、トウ小平が「隔代指導者指名」をしてから、結果的に一代(一政権)ごとに繰り返されている。胡耀邦(1982年~87年)、胡錦濤(2002年~2012年)ともに、共青団の第一書記だった。習近平の次の政権は、やはり共青団第一書記だったという経験を持つ胡春華(現在、中共中央政治局委員、広東省書記)になるのではないかと予測されている。それを防ぐために李克強の力を削ごうとしているという憶測があるが、李克強は習近平が対抗しなければならないほどの力を持っているだろうか? 持っていないと筆者は思う。したがって、経済問題の論争以外、対抗する必要がない。習近平の方が圧倒的力を持っているし、国務院よりもはるかに「党が上」だからだ。経済問題も、ここのところ、互いに歩み寄りを見せており、まず李克強が盛んに一帯一路を強調し始めた。「党の言うことは聞くしかない」からだろう。
東北のゾンビ企業が閉鎖されたのは、「習近平が李克強をやっつけた」のではなく、「李克強が国営企業を痩身化させなければならないと主張してきたことが実現された」のである。この基本が分かってないと、中国経済の行方さえ見えなくなる。そのようなことをしていたのでは日本の国益にかなうとは思えない。
習近平と李克強に共通しているのは、「自分たちの代で中国共産党の一党支配体制を終わらせてはならない」という、逼迫した思いだ。
習近平はラスト・エンペラーにはなりたくないと思っている。
そのためには、李克強の力が、一定程度は必要なのである。
一党支配体制の崩壊要素は、目の前に横たわっているのだから。
2022年に来るであろう次期政権に関しては、またいつか改めて分析したいと思う。
[執筆者]遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会科学研究所客員研究員・教授などを歴任。『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』『チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男』『完全解読 中国外交戦略の狙い』『中国人が選んだワースト中国人番付 やはり紅い中国は腐敗で滅ぶ』『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』など著書多数。近著に『毛沢東 日本軍と共謀した男』(新潮新書)
※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。