最新記事

習近平の「三期続投」はあるのか?(「習・李 権力闘争説」を検証するPart3)

2016年10月25日(火)16時00分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

 それを可能にして「三期連続の続投」を実行するためには、憲法改正を行なわなければならない。

 この憲法改正は、憲法第七十九条だけではなく、常に全国人民代表大会常務委員会委員長に関する制約(第六十七条)と、国務院総理などに関する制約(第八十七条)と連動する形で規定されているので、もし習近平が連続三期「国家主席」でいようとすれば、これらすべての制約に関しても改正をしなければならなくなる。

 それだけではない。

 憲法第一百二十四条には「最高人民法院院長」に関しても「(全国人民代表大会の任期同様)連続二期を越えてはならない」という制約があり、第一百三十条には「最高人民検察院検察長」も「(全国人民代表大会の任期同様)連続二期を越えてはならない」と条文がある。

 つまり、中華人民共和国という「国家全体の枠組み」を改正しない限り、「国家主席の三期続投」は絶対に許されないことになっている。

 これほどきつい縛りがあるというのに、「権力闘争説」を主張する日本の論者あるいはメディアは、習近平が来年の第19回党大会において、王岐山を留任させることによって、自らの三期続投を可能ならしめようとしているという憶測を流布させている。

党規定でも制約

 それなら、三期連続、中共中央(中国共産党中央委員会)総書記にだけなって、国家主席にはならないという選択肢もあるのではないかと、考える人もいるかもしれない。そのようないびつな形を取ってまで総書記として三期続投するということに意義があるとは思えないが、党規定の方ではどうなっているのかを、念のために見てみよう。

 実は2006年6月10日、中共中央弁公室は「党と政府の領導幹部職務任期に関する暫定的規定」という文書を発布している。「領導」というのは基本的には「指導」の意味だが、「指導」よりも「君臨して統率する」というニュアンスが含まれている。

 その第六条には、「党と政府の領導幹部は、同じ職位において連続二期の任職に達した者に関しては、同一職務において、二度と再び推薦することもノミネートすることもしてはならない」と規定してある。

 したがって、ありとあらゆる側面から、「三期続投」は禁止されているのである。

 この国家の基本構造とも言える憲法や党規約の制約を覆してまで、習近平が三期続投を試みようとするとは思いにくい。将来に汚名を残すことは明瞭だからだ。

 現在開かれている六中全会においても、この方向へ移行するための操作をすることは考えられないと判断すべきだろう。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシアがウクライナに無人機攻撃、1人死亡 エネ施設

ワールド

中国軍が東シナ海で実弾射撃訓練、空母も参加 台湾に

ビジネス

再送-EQT、日本の不動産部門責任者にKJRM幹部

ビジネス

独プラント・設備受注、2月は前年比+8% 予想外の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 8
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 9
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 10
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 7
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中