最新記事

【2016米大統領選】最新現地リポート

討論初戦はヒラリー圧勝、それでも読めない現状不満層の動向

2016年9月27日(火)14時00分
冷泉彰彦(在米ジャーナリスト)

 またトランプは、「大統領職にはスタミナが大事」だと繰り返し、ヒラリーにはそれがないと批判したが、実際はこの討論の後半部分で、トランプはかなり「スタミナ切れ」の印象を与えたことは否めない。これに対してヒラリーは、終始堂々と受け答えをし、スタミナだけでなく、余裕の微笑みを浮かべて、トランプを突き放していたと言っていいだろう。

 トランプは、トレードマークの「日本叩き」を今回の討論の中でも繰り出し、「自動車をガンガン輸出するくせに、防衛費を払わない」などという嘘八百を並べていたが、まったくインパクトはなかった。それどころか、「日本と韓国に核武装を許す」とした過去の発言を取り上げられて、ヒラリーに「無謀な核戦略は極めて危険」と徹底的に叩かれた。

 どうしてここまでの差がついたのだろうか?

 おそらくは作戦の問題だと考えられる。トランプ陣営は、これまでは「コアのファン」を中心に好き勝手なことを吠える選挙戦を進めてきた。だが、今回のテレビ討論にあたっては「もしかしたら反トランプかもしれない巨大な中道層」に対して好印象を与えようと、「大統領候補らしい品格」を出そうとしたのではないだろうか。

【参考記事】トランプ当選の可能性はもうゼロではない

 例えば、支持者集会では「嘘つきヒラリー」と散々罵倒してきた相手に対して、今回は「前国務長官」であるヒラリーに敬意を払って「クリントン長官」という呼びかけで通していたし、いつもの「罵倒口調」は影を潜めていた。「青のネクタイ」が象徴するように、とにかく「品格」を気にかけていた。それが空回りした印象がある。

 一方のヒラリーの戦術は徹底していた。「売られた喧嘩は買う」というスタイルだ。ヒラリーはトランプのことを「ドナルド」と親しげに呼んで、じっくり話を聞くスタイルを取ってはいた。しかし、「言いたいだけ言わせ」た後で、トランプが5つのホラ話をしたのであれば、「おやまあ」と呆れた表情を見せ、5つ全部ではなく2つか3つに絞って辛辣に間違いを指摘する、そんな「喧嘩の買い方」をしていた。

 このアプローチは成功しており、1時間40分の長丁場の中で、ヒラリーの受け答えはほぼ完璧に近かった。最後の最後にトランプが「仮にヒラリーが当選したら、全面的に支持する」という発言をしたのはまったく意味不明で、もしかしたら「好人物を印象づけるために準備していた」のかもしれないが、見方によっては「敗北宣言」にも聞こえた。それ位に今回の討論は「勝負あった」と言えるだろう。

 では、これでヒラリーが再び勢いをつけて、8月初旬に言われていたような「地滑り的勝利」へ向けて選挙戦をリードできるのだろうか?

 そう単純には行かないだろう。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

輸出規制厳格化でも世界の技術協力続く=エヌビディア

ビジネス

ラトニック氏の金融会社がテザーと協議、新たな融資事

ビジネス

米、対中半導体規制強化へ 最大200社制限リストに

ワールド

ヒズボラ、テルアビブ近郊にロケット弾 ベイルート大
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 2
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではなく「タイミング」である可能性【最新研究】
  • 3
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたまま飛行機が離陸体勢に...窓から女性が撮影した映像にネット震撼
  • 4
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 5
    寿命が5年延びる「運動量」に研究者が言及...40歳か…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    クルスク州のロシア軍司令部をウクライナがミサイル…
  • 9
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 10
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 10
    2人きりの部屋で「あそこに怖い男の子がいる」と訴え…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 5
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 6
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 7
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 8
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中