最新記事

兵器

エジプトの過激派にナチスからの地雷の贈り物

2016年9月24日(土)11時00分
ピーター・シュワルツスタイン

Goran Tomaservic-REUTERS

<砂漠に埋まった第2次大戦中の大量の地雷を掘り起こして、ISISなどの過激派が爆弾として再利用している>(写真はイラクで地雷の除去作業にあたる米兵)

 首都カイロの上流階級が地中海沿岸近くに群がる夏の盛りにも、「世界最大の野外武器庫」は荒涼とした景色のままだ。

 エジプト北西部の砂漠地帯には、第二次大戦中に埋設された地雷が今も1700万個近く残る。1940年代初頭、北アフリカで激しい戦闘を繰り広げたイギリス軍とナチスドイツ・イタリア軍が、何百万トンもの爆発物を砂漠に埋めたのだ。

 注意深く引かれた境界線の向こうは今も立ち入り禁止区域だ。こうした地雷原は、これまで主にアラブ系遊牧民ベドウィンの問題だった。06年以降、150人以上のベドウィンが地雷で亡くなっている。

 ところがテロ組織ISIS(自称イスラム国、別名ISIL)やその他のジハード(聖戦)組織が勢力を伸ばすにつれ、大量に埋まった地雷の潜在力に注目する者が出てきた。エジプト軍と政府の当局者は、ISISなどが地雷の部品から爆弾や簡易爆発物(IED)を作っていると指摘する。

「テロリストが古い地雷を利用しているとの報告が少なくとも10件は軍から上がっている」と、エジプトの元駐サウジアラビア大使で、最近まで地雷除去担当部署のトップを務めていたファティ・エルシャズリーは言う。

【参考記事】クルーニー夫妻、虐殺でISISを告発。「覚悟はできている」

 彼によれば、最初の事例は04年にイスラム過激派がシナイ半島のリゾート地タバで起こした自動車爆発テロ。古い武器から作られた7つの爆弾が使われ、34人が犠牲となった。その後、国内各地で治安が悪化するにつれ、使用例がしばしば見られるようになった。14年11月に、エジプトの有力ジハード組織「アンサール・バイト・アル・マクディス」がISISへ忠誠を誓ってからは特にそうだ。

 世界1位の武器輸入国サウジアラビアから無法地帯のリビアまで、現在の中東・北アフリカには高性能兵器があふれている。それなのに、過去の残骸に関心を持つ過激派がいるのは、不思議に思えるだろう。しかしリビアやエジプトの広大な内陸部で活動する彼らにとって、爆弾は爆弾だ。武器の供給が安定しないなか、第二次大戦の遺物をくすねたい衝動は抑え難い。

 3月にはエジプトの紅海沿岸近くで、軍の護衛隊に対するIED攻撃があり、兵士5人が亡くなった。これには古い地雷から盗まれた火薬が使われていた。

 こうした地雷を掘り起こす作業は危険を伴う。しかしリビア国境から200キロ余りのマルサ・マトルーフ周辺の住民にとって、背に腹は代えられない。この辺りは約4キロにわたる地雷原に3方向を取り囲まれており、開発が妨げられている。村人たちは貧しく、危険を冒してでも地雷を見つけて売りさばきたい。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

FRBが5月に金融政策枠組み見直し インフレ目標は

ビジネス

EUと中国、EV関税巡り合意近いと欧州議会有力議員

ワールド

ロシア新型中距離弾道ミサイル、ウクライナが残骸調査

ビジネス

日経平均は続伸で寄り付く、米株高を好感 主力株上昇
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 2
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではなく「タイミング」である可能性【最新研究】
  • 3
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたまま飛行機が離陸体勢に...窓から女性が撮影した映像にネット震撼
  • 4
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 5
    寿命が5年延びる「運動量」に研究者が言及...40歳か…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    クルスク州のロシア軍司令部をウクライナがミサイル…
  • 9
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 10
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 10
    2人きりの部屋で「あそこに怖い男の子がいる」と訴え…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 5
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 6
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 7
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 8
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中